Category: Novels

幽霊書店

載されたものですが、このすぐれた雑誌の編集者には再版の許可をいただいた ことを感謝します。 ロジャーは十台のパルナッソスに地方回りをさせることになりましたので、 もしかすると旅先で皆さまのお目に留まることがあるかもしれません。もしも そのような機会があれば、パルナッソス巡回書店株式会社のあらたな行商の旅 が、わたしたちの高貴な職業の、ふるくて名誉ある伝統をけっして汚すもので はないことをお確かめいただきたいと思います。

Summary

載されたものですが、このすぐれた雑誌の編集者には再版の許可をいただいた ことを感謝します。 ロジャーは十台のパルナッソスに地方回りをさせることになりましたので、 もしかすると旅先で皆さまのお目に留まることがあるかもしれません。もしも そのような機会があれば、パルナッソス巡回書店株式会社のあらたな行商の旅 が、わたしたちの高貴な職業の、ふるくて名誉ある伝統をけっして汚すもので はないことをお確かめいただきたいと思います。

Chapters

7. 第六章 ティタニア、仕事を覚える

ロジャー・ミフリンは夜更かしするくせがあったが、朝起きるのも早かった。

3. 第二章 コーンパイプ・クラブ*

*読者が書店経営者でないなら、本章の後半は飛ばしていただいてかまわない。

2. 第一章 幽霊書店

ブルックリンといえば、とびきりあざやかな夕映えと、女房持ちが乳母車を 押すすばらしい光景の見られる街だが、もしもあなたがそこに行くことがある なら、まことにめずしい本屋のある、とある静かな裏通りに行きあたることを 願う。 この本屋は「パルナッソスの家」という、いっぷう変わった屋号を持ち、店 をかまえた褐色砂岩のふるい快適な住居は、配管工とごきぶりが数代...

4. 第三章 ティタニア到着

朝食後の最初の一服は年季の入った喫煙家にとっていささか重要な儀式であ る。ロジャーは階段の下にたたずみ、パイプの火皿に火をいれた。強烈な青い 煙がもうもうと吹き出され、急いで階段をのぼる彼の背中で渦を巻いた。その あいだ、彼の頭はもうすぐやってくる雇用人のために小さな空き部屋を準備す るという楽しい仕事のことでいっぱいだった。そして階段をのぼりきったと...

5. 第四章 消える本

「なあ、おまえ」その日の晩の食事のあとでロジャーはいった。「ミス・ ティタニアにうちの朗読の習慣をご披露したほうがいいと思うんだが」 「退屈じゃないかしら?」とヘレンがいった。「みんながみんな本を読んで もらうのが好きなわけじゃないから」 「あら、わたしは大好きです!」とティタニアが叫んだ。「本を読んでもら えるなんて思ってもみなかったわ。子供の時いら...

16. 第十五章 ミスタ・チャップマン、魔法の杖を振る

ギッシング通りは幽霊書店の爆破事件をそう簡単には忘れそうになかった。 ワイントラウブの地下室から司法省が四年間捜しあぐねていた情報が見つかり、 おとなしそうなドイツ系アメリカ人の薬剤師がじつは何百もの焼夷弾を作った 職人で、その爆弾がアメリカおよび連合国の船舶や弾薬工場に仕掛けられてい たことが判明、さらにそのワイントラウブが翌日ボストンのブロムフィー...

15. 第十四章 「クロムウェル伝」最後の登場

「大馬鹿者め」半時間後、ロジャーがいった。「どうしてもっと早くに話し てくれなかったんだ? なんてことだろう、とんでもないことが起きている ぞ!」 「あなたがなにも知らないなんて、どうしてわたしにわかるというんで す?」オーブリーはいらいらといった。「なにもかもあなたに不利なことばか りじゃないですか。あの男が自分の鍵で店のなかに入っていくのを見たら、...

12. 第十一章 ティタニア、ベッドのなかで読書をこころみる

オーブリーはオペラグラスを手に窓際に座ったが、すぐに自分が疲れ切って いることに気がついた。ロマンチックな英雄的行為にはやる心も疲れにはかな わない。夢を追い求める者すべてにとって手ごわい敵である。その日は長い一 日だったし、前日は頭をかち割られそうになった。窓を押し上げ、冷たい風に あたりながら、彼はかろうじて目を開けていた。うとうととしかけたときに...

8. 第七章 オーブリー、間借りする

ミスタ・オーブリー・ギルバートがこの作品の主人公としてけっして理想的 な青年でないことは作者も承知している。この時期、主役の青年が左の袖にな ぜ金の山形袖章をつけていないのか。これには少々説明が必要だろう。じつを 言えば、われらがグレイ・マター広告代理店の若き社員は偏平足《フラット・ フィート》を理由に徴兵局と徴兵委員会から入隊を拒否されていたのである...

9. 第八章 オーブリーは映画に行き、もっとドイツ語ができればと思う

本屋からいくらも離れていないところに偉大な都市ミルウォーキーの名をい ただいた小さなカフェテリアがあった。カウンターで食べ物を買い、平たい肘 掛のついた椅子に座って食べる気持ちよい食堂のひとつである。オーブリーは スープ、コーヒー、ビーフ・シチュー、ブラン・マフィンを受け取り、窓際の あいた席に持って行った。彼は注意を半分通りにむけながら食事をした。通...

14. 第十三章 ラドロー通りの戦い

オーブリーは意志の力と意識下にひそむ時間感覚だけをたよりに、つぎの日 の朝六時に起床した。魅力的な若い娘にこれくらい心のこもった行為が捧げら れることは、そう滅多にあることではない。若者は真剣に、原始人のように一 心に眠った。それは彼にとってほとんど宗教的な儀式だった。ある二流の詩人 が言ったように、彼は「眠りを生涯の仕事とした」のだ。 しかしロジャー...

10. 第九章 ふたたび物語の進行は遅れる

ロジャーは店のなかで静かな晩を過ごしていた。頭の上に霧のようなたばこ の煙をうかべながら、机にむかって書籍業に関する偉大な著作の第十二章の執 筆にいそしんだ。この章は(残念なことに最初から最後まで夢想に過ぎなかっ たが)「一流大学名誉文学博士号授与記念講演」として発表されるべきもので あり、これを書いているとさまざまに魅惑的な可能性が頭に浮かんできて、...

13. 第十二章 オーブリーは他人とはちがうサービスを決意する

若者がその日曜日のオーブリーくらいみじめな午後を過ごすことは、そう多 くはないだろう。ただ一つの慰めは、彼が本屋を出てから二十分後にタクシー がやってきて(彼はそのとき寝室の窓辺に座ってふさぎ込んでいた)ティタニ アが乗り込み、走り去ったことである。ラーチモントの一行に合流するのだと 思い、彼女が「交戦地帯」と彼が呼んでいるところから抜け出したことを知...

6. 第五章 オーブリーは途中まで歩き――残りは車で家に帰る

その晩、ミスタ・オーブリー・ギルバートが幽霊書店を辞し、歩いて家路に ついたとき、夜の空気は冷たく冴えわたっていた。とくに理由があったわけで はないが、地下鉄の轟音に黙想をさまたげられるよりは歩いてマンハッタンに 帰ったほうが、なんとなくいいような気がした。

11. 第十章 ロジャー、冷蔵庫をあさる

ちょうどロジャーがカーライルの「クロムウェル伝」を歴史アルコーヴのあ るべき場所にもどしたとき、ヘレンとティタニアが映画から帰ってきた。ボッ クは主人の椅子の下でうたた寝していたのだが、礼儀正しく起きあがると敬意 をあらわすように尻尾を振った。 「ボックってしぐさにとっても愛嬌があるわ」とティタニアがいった。 「そうね」とヘレンが応えた。「あれだけ尻尾...

22. 第六章

The Winning of the Best (1912) by Ralph Waldo Trine (1866-1958) 作者は十九世紀の新思想運動の指導者の一人。人間の内なる力を認識し、それ を神の意志と調和させることで、健康、愛、成功、平和が得られると主張する。

17. 第一章

Trivia (1902) by Logan Pearsall Smith (1865-1946) 断章形式で人生の諸相を一筆書きしたエッセイ集。ユーモアとメランコリーと シニシズムが軽くふりかけられた、しゃれた文章である。

19. 第三章

Society in Rome under the Caesars (1888) by William Ralph Inge (1860-1954) イングは神学者で、セント・ポール大聖堂の主任司祭だった。ペシミスティッ クな思想の持ち主で「憂鬱な主任司祭」と呼ばれた。本書はローマ帝国の文化・ 社会を詳説したもの。

18. 第二章

The Home Book of Verse (1912) ed. Burton Egbert Stevenson (1872-1962) 一五八〇年から一九一二年に至るまでの英米の詩のコレクション。B. E. Stevenson は図書館司書で、本書と Home Book of Quotations (1934) の編者 として有名。児童書やミステリ...

26. 第十章

The Wishing-Cap Papers (1873) by Leigh Hunt (1784-1859) 作者は進歩的な雑誌 The Examiner を創刊し、随筆や批評を各新聞に書いてい たジャーナリストである。本書は彼の軽妙な随筆集。

21. 第五章

The Man on the Box (1904) by Harold MacGrath (1871-1932) 立派な家柄の若き退役軍人ボブが、ふとしたいたずらをきっかけに、ひそかに 思いを寄せる美しい貴婦人の屋敷に、身分を隠し、御者として奉公することに なる。アメリカ上流階級・政界を舞台にした冒険とロマンス。

20. 第四章

Making Life Worth While (1918) by Douglas Fairbanks (1883-1939) ダグラス・フェアバンクスといえば「ゾロ」 (1920) とか「三銃士」(1921) の 映画俳優だが、同時に自己啓発の本を何冊も著している。ダグのしあわせの処方 箋とは、「謙虚であること、いつも良い機嫌でいること、肉体を鍛錬す...

25. 第九章

Helen's Babies (1876) by John Habberton (1842-1921) 二十八歳の独身男が、二週間のあいだ、姉夫婦の二人の子供の面倒を見ること になった。ところがこの二人、近所の人から小鬼と綽名される大変なやんちゃ だった。もちろんこの後は映画でよくある「子供 vs. 大人」のコメディが展 開される。

1. 第一章、第二章、第三章、および第六章はもともと「ザ・ブックマン」に掲

載されたものですが、このすぐれた雑誌の編集者には再版の許可をいただいた ことを感謝します。 ロジャーは十台のパルナッソスに地方回りをさせることになりましたので、 もしかすると旅先で皆さまのお目に留まることがあるかもしれません。もしも そのような機会があれば、パルナッソス巡回書店株式会社のあらたな行商の旅 が、わたしたちの高貴な職業の、ふるくて名誉ある伝...

24. 第八章

The Blazed Trail (1902) by Stewart Edward White (1873-1946) 作者はアメリカ西部の自然を舞台に冒険物語を幾つも書いている。本書は伐木 搬出業の裏面を暴いた、いわゆるマックレイキングな本でベストセラーになっ た。

28. 第十五章

How to Be Happy Though Married E. J. Hardy が一九一〇年に書いた本だろうか。この手のタイトルの本はよく 出版される。

23. 第七章

Rolling Stones by O. Henry (1862-1910) これは短編集なのだが、オーブリーが他の作家に完成させたいと言っているのは 絶筆になった「夢」という作品だろう。嫉妬に駆られた男が恋人を殺し、死刑執 行の直前に幻を見る、幸せそうな恋人と、彼らの子供の幻を、という話になるは ずだったらしい。

27. 第十三章

Tooke's Pantheon イエズス会士 Francois Pomey (1618-1673) が書いた有名な神話の本をイギリ ス人アンドリュー・トゥック (1673-1732) が一六九八年に英訳したもの。後の 版に附けられたアメリカ人の版画家 G.フェアマンの挿絵はちょっと有名。