Category: Romance
苦悶の欄
二年前の七月、ロンドンの猛暑はほとんど我慢の限界をこえていた。いまか ら思えば当時の焼けつく大都市は、拷問部屋へつうじる控えの間のごとき役割 をはたしていたのかもしれない。つまり世界大戦という地獄のおとずれにむけ て不充分ながら下準備をととのえていたわけである。セシル・ホテルのそばに たつ、ドラッグストアのソーダ水売り場には大ぜいのアメリカ人観光客がたむ ろし、母国で売られているのとおなじソーダやアイスクリームにほっと息をつ いていた。ピカデリーの喫茶店のあけはなたれた窓からは、イギリス人が涼を もとめて何クォートもの熱いお茶を飲んでいる姿が垣間見...