雲形紋章

第三章

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「神の手」はこの自治郡の中でもいちばんの高台にあり、ウエストレイの部屋はその三階にあった。居間の窓からは家並とそのむこうのカラン・フラット、海と町をへだてる広大な塩水性の牧草地が見渡せた。前景には赤いかわら屋根が延々と並び、中景には聖セパルカ大聖堂の、高々とかかげられた塔と屋根の大棟《おおむね》が見え、その偉容はあたりの家を残らずその壁の内に呑みこむのではないかと思わせた。そして遠景には青い海があった。

夏になると紫色のもやが河口にかかり、湿地から立ちのぼる熱気のきらめきを通して、カル川が銀色にうねって海に流れるさまや、雪のように白い雁の群れや、あちこちに輝く遊覧船を見ることができる。しかし秋になると、ウエストレイがはじめて見たように、繁茂する草はいっそう緑を濃くし、塩水性の牧草地は表面に不規則な粘土色の水路をはわせた。それは満潮時は老人の目尻のしわのように見えるのだが、干潮時はねっとりした土手にはさまれ、虹色の水を底にたたえた小さな溝へと縮こまった。もぐらが柔らかい茶色の壌土でうねり道のような小型の土饅頭を盛り上げるのはこの秋である。そして泥炭採掘場では切り出し人夫がより大きな、より黒々とした泥炭のかたまりを積み上げるのだ。 かつてはこの風景にもう一つ目をひくものがあった。多くの豪華船、バルト諸国と交易する材木運搬船、茶輸送専門の快速帆船、大型インド貿易船、移民船、こうしたものの帆柱や帆桁が見られ、ときにはカランの冒険家が有する私掠船の傾斜したスパーも見られた。これらはすべてとっくの昔に最後の港にむけて船出しており、今では立派な船と言っても、冬のあいだ、よどんだ入り江に係船されているドクタ・エニファーの帆船《センターボード》が帆柱を見せているくらいである。しかしそれでもこの風景は充分に印象的であり、「神の手」の上階の窓は、知る人ぞ知る、町でいちばん眺めのいい場所だった。

大勢の人がこの窓からその風景を望み見た。船長の妻は結局戻ることのなかった夫のバーク船が引き綱で引かれながら川を下っていくのを目で追った。西から早馬で旅してきた新婚夫婦はカランで足を止め、夏のたそがれ時に椅子に座って手を取り合い、白い霧が牧草地の上に立ちのぼり、宵の明星がすみれ色の空に輝かしくかかるまで海のほうを見つめつづけた。カラン義勇農騎兵団を徴募したフロビシャー船長はフランスの先兵があらわれないかと携帯用望遠鏡で見張りをし、最後にマーチン・ジョウリフは安楽椅子に座って、ブランダマー家の全財産を受け継いだら何に使おうと思案を巡らしながらその最後の日々を過ごした。 ウエストレイは朝食を終えてしばらくのあいだ、開け放った窓の前に立っていた。その日の朝は穏やかな快晴で、秋の大雨の後はしばしばそうなるように、大気に輝くような透明感があった。しかし彼は窓の前の障害物のせいで心から風景を楽しむことができなかった。邪魔なのは羊歯を入れたガラスのケースで、水槽をひっくり返した形のものが質素な木のテーブルの上に載っていたのだ。ウエストレイはじめじめした植物と、ガラスの内側に張り付く露の玉が気にくわず、この羊歯を部屋から取り払うことに決意した。彼はミス・ジョウリフに片づけてもらえるかどうか、尋ねてみようと思い、さらにこの決意は不必要な家具が他にもないだろうかと、彼に検討を促すことになった。

彼は心のなかで周囲の家具の目録を作った。質のいいマホガニー製の家具が幾つかあった。背板のない椅子や、正面がガラス張りの本棚などがそれで、これらはウィドコウム農場にあった自由農民《ヨーマン》の家具の生き残りである。マイケル・ジョウリフの他の所有物と一緒にオークションに出されたのだが、カランの人の趣味からは古すぎるとみなされ、入札者がなかったのだ。他方、ビーズマットとか毛糸刺繍マット、綿毛マット、ケースに入った蝋細工の果物、貝殻サルビアのかご、背中に梳毛《そもう》織物を張った椅子、おもてが梳毛織物のソファ用クッション、白銀葦をいっぱい生けた安物の花瓶二つ、プリズム状の飾りを付けた蝋燭立て二脚、これらはひどくウエストレイの趣味に合わなかった。昔から彼は自分の趣味こそは非の打ち所のない最高の趣味であると信じこんでいた。壁には数葉の写真がかかっていた――ブラック・フォレストの衣装を着た若きマーチン・ジョウリフのカラー写真、ボートチームの色あせた写真、何かの廃墟の前に立つ別のグループの写真。これはカリスベリ博物学同好会がウィドコウム修道院へ見学旅行したときのものである。その他には難破船とか雪崩を描いた、よく見かける油絵や、花瓶いっぱいの花を描いた静物画も一点あった。 この最後の絵はその大きさといい、稚拙さといい、俗悪でけばけばしい色といい、ウエストレイの気分を滅入らせた。朝食の席につくとその絵が真正面に見え、しばらくは細部の面白さに興をそそられたが、引きつづきこの部屋に住むとなれば目障りでしかなくなるだろうと彼は感じた。白と青に塗られた陶磁の花瓶が、磨き上げられたマホガニーのテーブルの上に置かれ、およそ珍妙な花が生けられた絵である。花瓶が絵の半分を占め、もう半分にはテーブルの上板が意味もなく広がっていた。画家は構成のバランスの悪さに気がついたのだが、そのときはもう明らかに手遅れの段階に達していて、テーブルの上に花を数本ばらまくことで修正を施そうとしたようだった。この花を目指してぶよぶよした緑色の芋虫がテーブルの端、つまり絵の端で身をくねらせていた。 ウエストレイは熟慮の末、羊歯のケースと花の絵は部屋に置くにはまったくふさわしくないと判断した。できるだけ早い機会にミス・ジョウリフと相談して取り払ってもらおう。他の細々した点は、さほど面倒もなく、少しずつ変えていってもらえるだろうと思ったが、それまでの下宿の経験から、絵をはずすのは、ときに困難で、細心の注意を要する問題であることを知っていた。

彼は丸めた設計図を開いて必要なものを選び、聖堂に行く準備をした。足場を作るために大工と打ち合わせをしなければならなかった。下宿を出る前に昼食の注文をしておこうと思い、女主人を呼ぶために梳毛糸でできた太い呼び鈴の紐を引いた。しばらく前からバイオリンの音が聞こえていて、呼び鈴の返事を待ちながら耳を澄ませていた彼は、音楽が途切れたり繰り返されたりするのを聞いてオルガン奏者がバイオリンの稽古をつけているのだと思った。最初の呼び出しに応答がなく、二回目の試みも同様に失敗すると、彼はいらいらと立てつづけに何度も紐を引いた。すると音楽が止み、彼は憤慨をこめて鳴らした呼び鈴がきっと音楽家たちの注意を引き、オルガン奏者がミス・ジョウリフを呼びに行ったのだろうと考えた。

彼はほったらかしにされて癇癪をおこし、ようやくドアにノックの音がしたとき、女主人の怠慢を叱責しようと身構えていた。彼女が部屋に入ってくると、彼は図面から目を離さずにこう切り出した。 「呼び鈴を聞いて来たときはノックしないでください。それより――」 彼はことばを失った。というのは目を上げると彼が話しかけていたのは年かさのミス・ジョウリフではなく、姪のアナスタシアだったからである。彼女は昨晩見たときと同じように優雅な姿で、波打つ茶色の髪はその独特の美しさでまたもや彼の注意を引いた。いらだちはたちどころに消え、使用人の役割を貴婦人が演じていることに気づいたとたん、繊細な心が感じて当然の、困惑の気持ちでいっぱいになってしまった。彼はアナスタシア・ジョウリフが貴婦人であることを信じて疑わなかった。彼女を非難するかわりに、奇妙な事態を引き起こしたのは自分の責任であるかのごとく振る舞った。

彼女は目を伏せて立っていたのだが、彼の咎めるような口調が頬に赤味をもたらし、その赤味が彼を狼狽させはじめ、彼女が次のようにしゃべったときには完全に打ちのめされてしまった。 「ごめんなさい。お待たせしてしまって。最初、鈴の音が聞こえなかったのです。別なところにいて、手がふさがっていましたから。そのあと叔母が応対に出たと思っていたんです。外出中とは知りませんでした」 低い、美しい声だったが、そこには恥ずかしさよりも疲れがこもっていた。彼が叱りつけるつもりなら、彼女はそれを甘んじて受ける覚悟だった。ところが今やおろおろと詫びを述べているのはウエストレイのほうだった。ミス・ジョウリフに伝えてもらえませんか、午後一時に昼食を食べに帰ると。料理は何でも構いませんから。うろたえ気味ではあったけれど親切なことばが返ってきて娘はややほっとした様子だった。彼女が部屋を出ていって、ようやくウエストレイはカランがヒメジで有名だと聞いていたことを思い出した。彼は昼食にヒメジを注文するつもりでいたのだ。水しか飲まない禁欲生活をしていたので、その分、食欲を満足させようと食べ物にはうるさかった。しかし魚を忘れてしまったことを後悔はしなかった。悲惨にも賤しい立場に身を落とした若い貴婦人とヒメジの特性及びその調理について議論するなど、崇高を滑稽に転落させる愚かな振る舞いでしかなかった。 ウエストレイが聖堂に出かけたあと、アナスタシア・ジョウリフはミスタ・シャーノールの部屋に戻った。実はバイオリンを弾いていたのは彼女だったのである。オルガン奏者はピアノの前に座っていらいらと腹立たしげに和音をかき鳴らしていた。 「どうだったい」彼女が入ってきたとき、振り返りもせず彼は言った。「ご主人様はわがレディに何を要求なさったんだい。家のてっぺんまでおまえさんを駆け上がらせるとは何事かね。あの男の首をねじ切ってやりたいよ。いつものように息が切れて手が震えているじゃないか。もうさっきみたいに演奏することすらできん。それだけじゃない。おやおや」彼は彼女を見て叫んだ。「七面鳥みたいに真赤じゃないか。あの男に愛の告白でもされたのか」 「ミスタ・シャーノール」彼女はすぐさま言い返した。「そんなことを言うのなら、もう二度とあなたのお部屋には来ません。そんなふうに話をするときのあなたは大嫌い。いつものあなたじゃないわ」 彼女はバイオリンを取り上げて脇に抱え、アルペッジョを鋭く鳴らした。 「ほらほら。そう何でもかんでも真面目に受け取らないでくれ。身体の調子が悪くていらいらしているだけだよ。許してくれ。誰もおまえさんに言い寄りはしないことくらい知っているさ、ふさわしい相手があらわれるまでな。わたしはそんな相手があらわれなければいいと思っている、アナスタシア――ずっとあらわれなければいいと思うよ」 彼女は彼の言い訳を受け入れもしなければ、はねつけもせず、音が低くなっていた弦を締めつけた。 「どうしたってゆうんだ!」彼女が演奏しようと譜面台に近づいたとき彼は言った。「ラがフラットになっているのが聞き取れないのか。パンケーキみたいにフラットじゃないか(註 「フラット」に「平ら」と「半音低い」の意をかけている)」 彼女は何もいわずに弦を締め直し、中断された楽章を弾きはじめた。しかし彼女は音楽に集中できずミスを重ねた。 「いったい何をやっているんだ」オルガン奏者は言った。「五年前に始めたときよりひどいじゃないか。これ以上やっても時間の無駄だよ、おまえさんにとっても、わたしにとっても」 その瞬間、彼女がいらだたしさのあまり泣いていることに気づき、彼は座ったまま演奏用の腰掛けをくるりと回転させた。 「アンスティス、本気で言ったんじゃないんだ。乱暴な口をきくつもりはなかったんだ。腕は上がっているよ――本当に。時間の無駄といったが、わたしには他にすることなんてないし、おまえさん以外に教える相手もいない。それに喜んでくれるなら、わたしが昼も夜もおまえさんのために時間を捧げることは知っているだろう。泣かないでくれ。どうして泣くんだい」 彼女はバイオリンをテーブルに置き、昨日の晩ウエストレイが座った藺草張りの椅子に腰かけると、両手で頭を抱え、わっとばかりに泣き出した。 「ああ」彼女は啜り泣きの合間に、奇妙な震える声でいった。「ああ、なんてみじめなんでしょう――何もかも情けなくてたまらない。お父さんの借金は残っているし、お葬式のお金も葬儀屋に払っていない。何をするにも先立つものがないわ。可哀想なユーフィミア叔母さんは死ぬほど働いている。叔母さんは家のなかの小物を売らなければならないって言っているのよ。それにせっかく品のいい下宿人、おとなしくて紳士的な人が来てくれたというのに、呼び鈴を鳴らしただけで、あなたは彼のことをののしり、わたしにひどいことを言うんですもの。どうしてあの人に叔母が外出中だと分かるんです?叔母が家にいるときは、呼び鈴が鳴ってもわたしに応対をさせようとしないなんて、どうしてあの人に分かるんです。もちろん、うちに使用人がいると思っているのでしょうね。それにあなたはわたしをとっても悲しい気持ちにさせるわ。昨日の晩は眠れなかった。あなたがお酒を飲んでいることを知っていたから。床に就いたとき、あなたが安っぽい曲を弾いているのが聞こえたわ。酔っているとき以外は大嫌いな曲を。何年も一緒に住んでいて、わたしにずっと優しくしてくれていたのに、今になってこんなことになるなんて。どうかお酒は止めて。わたしたちはみんな充分にみじめなんです、あなたにこれ以上みじめな思いをさせられなくたって」 彼は腰掛けから立ち上がり、彼女の手を取った。 「そんなふうに言わないでくれ、アンスティス――どうか。わたしは前にも酒を断ったことがある。またきっぱり止めるよ。あのときは女のせいで酒に手を出し、身を持ち崩した。わたしのような老いぼれが酒をくらって死のうが死ぬまいが、誰も気にしないと思っていたのだ。心配してくれる人がいるのだと分かりさえすれば。おまえさんが心配しているんだと思うことさえできれば」 「もちろん、わたし、心配しているわ」――彼の手に力がこもるのを感じたとき、彼女はそっと自分の手を引っこめた――「もちろん、わたしたち、心配しているわ――叔母さんもわたしも――叔母さんもこのことを知れば、心配するでしょう。ただ叔母さんはお人好しすぎて分かっていないだけなの。夕食後にあなたがお酒を飲んでいる、あの忌まわしいグラスは見るのもいや。前は全然違ったのに。わたしは家がしんと静まりかえったとき『牧歌』とか『告別《ル・アデュ》』の演奏を聞くのが大好きだったわ」 不幸が人間から自然な笑顔を隠してしまうとしたら、それは悲しいことだ。早朝の空模様は期待を裏切らず、空は青く澄み、綿のように白く輝く雲が、島やら大陸の形をなして浮かんでいた。柔らかな温かい西風が吹き、どの庭の茂みでも鳥が秋の訪れを忘れて楽しげにさえずっていた。カランは庭の町であり、人々はそれぞれの葡萄の木の下、無花果《いちじく》の木の下に安らうことができた(註 列王記Ⅰから)。蜜蜂は巣を飛び出し、いっせいにぶんぶんと陽気な羽音を立てながら、壁の上を濃紫色《こむらさきいろ》に覆う木蔦《きづた》の実にむらがっていた。聖セパルカ大聖堂の塔は角に小尖塔を備えていたが、その上の古い風見鶏がめっきし直したように光り、千鳥の大群がカラン湿地の上空を旋回しては、不意にむきを変えて銀色のきらめきを放った。オルガン奏者の部屋の開け放った窓からも黄金色の陽が射しこみ、色あせて擦り切れた絨毯の、シャクヤクの模様を照らし出していた。 しかし部屋の中には二つの哀れな心が息づいていた。一つは不幸に、一つは絶望に沈み、金色の風見鶏も、紫色の木蔦の実も、千鳥も、陽の光も見ず、鳥の声も蜜蜂の羽音も聞いていなかった。 「うむ、止めるよ」とオルガン奏者は言ったが、その声に先ほどのような力はこもっていなかった。彼がアナスタシア・ジョウリフに近づくと、彼女は立ち上がって笑いながら部屋を出た。 「お芋の皮むきをしなくてはいけないわ。さもないとあなたのお昼がないんですもの」 ミスタ・ウエストレイは貧乏にも老齢にも悩まされず、胃の調子もいいし、自分の力と前途のいずれにもこの上ない自信を抱いていたから、その日の美しさを心ゆくまで楽しむことができた。彼はその日の朝、前の晩にオルガン奏者に連れられて歩いた、曲がりくねった裏通りを避け、光の子(註 キリスト教徒のこと)のごとく、大通を歩いて聖堂にむかった。すると町の印象ががらりと変わった。大雨は舗道や車道をきれいに洗っていた。市のある広場に入ったとき、彼は溌剌とした光景や、その場に横溢する静かな賑わいに心を打たれた。

広場の二辺に並ぶ家々は、建物の上部が舗道に張り出していて、ずんぐりした木の柱に支えられるアーケードを形造っていた。ここにはその所有者が「最高の店舗」と自負する店が並んでいた。カスタンスは雑貨屋、ローズ・アンド・ストーリーは服地屋で、その正面は三軒分の広さを持ち、おまけに角には「仕立て専門」の「部署」まで持っていた。ルーシーは本屋で、カラン・エグザミナー紙を印刷し、最近発生したコレラ根絶のためカランで取られた対策に関するドクタ・エニファーの論文や、さらには参事会員パーキンの説教集をも何冊か出版していた。カルビンは馬具商、ミス・アドカットは玩具店を経営し、プライアは薬剤師と郵便局長を兼任している。広場の三つ目の辺の中心にはブランダマー・アームズが建っていて、淡黄褐色の広い正面を見せ、緑のブランインドが下り、窓の建具はオークの木目模様に塗装されていた。ホテル前の舗道の縁から石の階段がのび、その横に立つ白くて背の高い棒のてっぺんには緑色と銀色の雲形紋章そのものがはためいていた。ブランダマー・アームズの両脇には数軒、当世風の店がかたまっていたが、アーケードがないため、赤い筋の入った茶色い日覆いで満足しなければならなかった。この商店の一つが豚肉を売るミスタ・ジョウリフの店だった。彼は開いた窓からウエストレイに挨拶した。 「お早うございます。もうお仕事の時間ですか」彼は建築家が丸めて脇に抱えている設計図を指さした。「こんな修復工事に呼ばれるなんて、名誉なことですよ」彼はそう言って陳列台の肉片をもっとおいしそうに見えるよう置き直した。「きっとあなたの努力に神様のお恵みがあるでしょう。わたしもお昼頃、仕事の合間を縫って、聖堂で静かに瞑想するんです。そのときお目にかかったら、できる範囲で何でもお手伝いしますよ。それまではわれわれ二人とも自分の仕事に精を出しましょう」 彼はソーセージ製造器のハンドルを回しはじめ、ウエストレイは彼の信心深いことばと、それにもまして鼻持ちならない恩着せがましさから逃れることができてほっとした。