裁判

Part 3

Chapter 3 12,296 words Public domain Markdown

メイ どういうこと! ジェラルド――。

(ジェラルド、下手前方のラッセルの所へ行く)

トラスク 黙っていろと言ったんだ。わたしに任せろ。どうしろと言うんだ、ラッセル?

ラッセル すぐ出ていってください。

トラスク 午後出ていく予定だ。

ラッセル それではだめです。直ちに出ていってください。いま十一時です――お昼ま でには出ていってください。

トラスク 準備ができたら出て行ってやるさ。

ラッセル いいえ、いま出ていってください。怪しい客をお泊めするわけにはいきませ ん。

メイ どうしてあんなことを言わせておくの?

トラスク 黙っていてくれ!

ラッセル わたしは何年もかけてよい評判を築いてきたのです。あなたのためだろうが、 誰のためだろうが、それを犠牲にするつもりはありません。

トラスク 自尊心の強いやつだな。ロング・アイランドの旅館はここだけじゃないんだ ぜ。

ラッセル あなたのごひいきがなくてもやっていけます。とにかく、あなたみたいな人 は虫が好きませんね。

トラスク 言いたいことは充分言っただろう、ラッセル。出ていってくれ。(上手に行 き、それから舞台後方へ)

ラッセル (下手のドアへ)いいでしょう。しかしお昼までに出ていってくださいよ、 いいですか。お嬢さん、あなたのためにも、それまでにお父さんがここに到 着することを祈りますよ。

トラスク 部屋から出て行かないなら、蹴り飛ばすぞ。

ラッセル 昼までに出ていかなかったなら警察を呼びますよ。(下手から退場)

(トラスク、下手へ。ドアに鍵をかける。メイ、そのあとを追う)

メイ ジェラルド、彼はどうしてあんな口のきき方をするの? どうして説明しな かったの?

トラスク まずいことになったな。

メイ でも、ジェラルド、説明しさえすれば――。

トラスク おやじに居場所を教えるなって言ったじゃないか。

メイ 教えてないわ。

トラスク なんだと!

メイ 教えてないわよ。教えるなって言われなかったら、言っていただろうけど。

トラスク だれにも言うなと五十回は言ったぞ。(上手前方へ)

メイ でも、わたしはしゃべってないわ――絶対!

トラスク じゃ、どうしてここが分かったんだ?

メイ 知らないわ――でもわたしから聞いたんじゃない。

トラスク これだけは起きて欲しくなかったんだ。(下手へ)

メイ でも、わたしのせいじゃない。

トラスク 君の親父がここに来る。一騒動あるぞ。

メイ だいじょうぶだと分かれば何も起きないわ。でもどうしてまだ結婚してないっ て分かったのかしら。

トラスク さあ、時間を無駄にするな。準備しろ。(上手へ)

メイ なんの準備?

トラスク 出発のだよ。おやじが着くまでに抜け出すんだ。

メイ そんなのだめよ、ジェラルド。ねえ――。

トラスク わたしがなんとかする。準備しろ。(上手のドアへ――ノックの音)

メイ きっとミスタ・スミスだわ。

トラスク くそっ!

君のおやじだ。一悶着あるぞ――。

メイ 入ってもらってもいい?

トラスク 待て。君のおやじなら、わたしが会うのはまずい。

メイ でも、ジェラルド――。

トラスク よく聞くんだ。わたしは別の部屋に行く。君がおやじさんと話しているあい だそこで待っている。わたしを出せといわれたら、外出していると言うんだ。 できるだけ急いで追い返せ。分かったな?

メイ ええ。でももしミスタ・スミスだったら?

トラスク いま指示したとおりにやれ、いいな?

(ノックの音。彼は寝室に入る。メイはぐずぐずと立ち止まっている。それか ら下手へ行き、ドアの鍵をはずす)

メイ お父さん!(中央下手寄りにさがる)

ディーン トラスクはどこだ?

メイ どうして来たの、お父さん?

ディーン やつはどこだ?(中央、テーブルの前に行く)

メイ で、でかけているわ。

ディーン どこに行った?

メイ 知らないわ――言わなかったから――でも、お父さん――。

ディーン いつ戻る?

メイ それは――しばらくは戻らないと思う。(間を置く)どうしてここだと分かっ たの、お父さん?

ディーン いま、そんなことはどうでもいい。荷物をまとめなさい、メイ。(朝食を見 る)

メイ 荷物? どうして?

ディーン 家に帰るんだ。

メイ でも、お父さん、ジェラルドとわたしはきょう結婚するのよ。いま牧師を待っ ているの。(父のほうへ行く)

ディーン やつは結婚できん。(娘を抱く)

メイ できないって、どういうこと?

ディーン もう結婚しているからだ。(背をむける)

メイ (声を詰まらせて)結婚してる?

ディーン やつの奥さんが今朝電話をしてきた。監視させていたらしい。

メイ 嘘よ! そんなの信じない。信じないわ!

ディーン おいで、メイ。

メイ (ドアに背をむけて)お父さん、分からないの? わたしたち、今日結婚す るのよ。牧師が来るのよ。(ミセス・トラスク登場)きのうの晩、来るはず だったんだけど。お父さん、分からない?(メイは振り返ってミセス・トラ スクを見る。間を置いて)あなたは、誰? なんの用? この人は誰なの?

ディーン ミセス・トラスクだ。

ミセス・トラスク お父さんと家に帰りなさい。

(メイ、呆然と二人を見る)

ディーン (彼女のそばに寄り)さ、メイ、来るんだ。

(メイ、寝室のドアに駆け寄り、荒々しく開ける)

メイ ジェラルド! ジェラルド!(部屋の中に入り、出てきて、ドア口に立つ。

五つ数えたのち、車の音。彼女は窓辺に駆け寄る。ディーン、寝室に入る) ジェラルド! ジェラルド!(叫び声をあげて倒れる。ディーン、戻ってく る)

ディーン メイ!

(暗転。幕)

第三場

(幕が上がり明転)

メイ (証人台に立っている)それからなにが起きたのか、覚えていません。きっ と気絶したのでしょう。でもあの自動車の音はその後、何週間も頭のなかで 鳴り響いていました。そのすぐあとでした、父が亡くなったのは。それから ロバート、わたしの夫に出会ったのです。彼がわたしに心を寄せていると知っ たとき、わたしはあの――あの恐ろしい経験のことを話そうとしました。け れども彼の幸せを壊すのが怖かったのです。理解してもらえなかったかも知 れません。男の人には理解できないことですし、わたしはあの人をとても愛 していました。彼にはわたしと、わたしを信頼することが必要のようでした。

彼にしゃべることはできない、わたしはそう思うようになりました。彼はわ たしの人生のすべて。どんなにささいな不幸からも彼を守るため全力を尽く すつもりでした。彼は強い男ですが、わたしが守ってあげる必要があるよう でした。二年後、わたしたちは結婚し、あの恐ろしい経験は悪い夢にすぎな かったと考えるようになりました。それから赤ちゃん――ドリスが生まれま した。わたしが見守るべき相手が二人になったのです。彼らの幸せがわたし の人生のたった一つの目的でした。九年間、わたしたち三人は幸せに暮らし ていました。ところが一年ほど前のある日、ロバートがあの男の名前を口に したのです。どこかであの男に会ったのです。そのまま二度と会うことがな ければいいと思っていたのですが、二人はますます親密になっていきました。 ロバートは何度かわたしたちを引き合わせてやると言ったのですが、わたし は一年間それを避け続けました。そのあいだに、ロバートの事業に問題が生 じ始めました。彼――あの男ですが――は夫にお金を貸したり、いろいろ救 いの手をさしのべてくれました。彼らの友情が深くなるにつれ、わたしはわ たしたちの幸せがめちゃくちゃにされるのではないかと恐れるようになりま した。そんなときに、あるビジネスチャンスが訪れたのです。それを利用す ればニューヨークを離れることができる。わたしはロバートにこのチャンス を受け入れるよううながし、彼もとうとうそうする決心をしました。まるで 神様が夫と子供の幸せを守ってくれているみたいでした。月曜日にロバート はクリーブランドへ行きました。そして火曜日の夜、あの男が来たのです。 その日が支払期限になっている手形のことで。彼はわたしを見るとロバート にすべてを暴露すると脅しました。わたしをあざ笑い、わたしがずっと黙っ ていたから、かえってロバートはわたしに対する中傷をなんでも信じるだろ うと言いました。彼は次の日、ロング・ブランチの彼の家に来いとわたしに 要求しました。わたしは慈悲を乞い、ひざまずき、何度も何度も懇願しまし た。彼は聞こうとすらしませんでした。ロバートを破滅させ、乞食にしてや ると言うのです。わたしは恐ろしくて気が狂いそうになりました。自分のこ となんかどうでもよかった。ただロバートと子供のことだけを考えていまし た。彼らの幸せはわたしの決断にかかっている。彼らを守るためならどんな 犠牲も払うつもりでした。死ぬことで彼らが救えるなら、喜んで死んだでしょ う。本当はそのほうがずっと易しかったのだけど――でもほかに方法はなかっ たし、わたしはなんとしてでも彼らを救わなければならなかった。そのあと ロバートに勘づかれてしまい、わたしの長年にわたるもくろみはついに打ち 砕かれてしまいました。きのうの晩、病院で看護婦たちが小さな女の子の証 言について話をしているのをぼんやりと聞きました。それがわたしの子供で、 夫が殺人と窃盗の罪で裁判にかけられていることを知り、病院の人はいやがっ たのですが、わたしは真実を知らせなければ夫が死刑になるかも知れないと 説き伏せて出てきたのです。わたしは真実をお話ししました。お分かりにな りませんか?

夫は盗みに入ったのではないのです。お金など取りはしませ ん。ロバートは泥棒じゃありません。非難されるべきなのはわたしです。罪 はすべてわたしにあります。わたしは夫と子供の人生を台無しにしてしまい ました。神様、どうぞお許しを!(幕が下りる)神様、どうぞお許しを!

エピローグ

第一場

陪審員室

陪審長 ミスタ・マシューズ。

マシューズ 無罪。

陪審長 ミスタ・アダムス。

アダムス 無罪。

陪審長 ミスタ・リッチナー。

リッチナー 無罪。

陪審長 ミスタ・レヴィット。

レヴィット 無罪。

陪審長 ミスタ・オートン。

オートン 無罪。

陪審長 ミスタ・サマーズ。

サマーズ 無罪。

(幕が上がる)

陪審長 ミスタ・タヴェル。

タヴェル 無罪。

陪審長 ミスタ・エリオット。

エリオット 無罪。

陪審長 ミスタ・フレンド。

フレンド 無罪。

陪審長 ミスタ・リーズ。

リーズ 無罪。

陪審長 ミスタ・ムア。

ムア (下手前方で立ち上がり、躊躇したあと)無罪。

リーズ よしよし!

フレンド そうこなくっちゃ。

エリオット とうとう終わった!

タヴェル いや、よかった!

ムア ちょっと待ってください。ミスタ・トランブルがまだ票を投じてませんよ。 あなたはどっちです?

陪審長 無罪十一票、有罪一票だ。

リーズ おいおい、トランブル! いまになって反対するなよ!(下手前方へ行く)

フレンド 片意地張ってなんになるんだ。(立ち上がる)

タヴェル 無罪に変えて、けりをつけようぜ。

陪審長 (静かに)変えるつもりはないよ、みんな。

サマーズ なあ、トランブル、理性に耳を傾ける気があるかい?(中央下手寄りへ)

陪審長 (椅子を後ろにずらし、片足をテーブルにのせる)聞こうじゃないか。

サマーズ ストリックランドを電気椅子に送ってなんになるんだ? トラスクが生き返 るわけでもないだろう?

君がしていることは、ただ、善良で高潔でまっと うな男を殺すことだぜ。社会にとっては貴重な人材だって言うのに。それに いちばん苦しんでいるのは誰だ? ストリックランドか? いや、彼じゃな い!

奥さんと子供だよ。この二人が苦しんでいるんだ。君の評決は繊細な 女性を世間から追放し、小さい子供の名前に汚点をつけることになるんだ。

二度とぬぐい去ることのできない汚点を。君はいったいなにを考えているん だ、有罪にしようなんて?

陪審長 有罪になんかしたくはないさ。被告が誰であろうと、死刑にしたいとは思っ ちゃいない。わたしはみんなと同じくらい人間らしい気持ちを持っているつ もりだよ。あなたの話を聞くと、わたしがストリックランドの血に飢えてい るみたいじゃないか。

(サマーズ、フレンドのそばへ行く)

マシューズ 合意をしぶる理由は?

レヴィット どうして無罪に票を投じない?

タヴェル 言っていることとやることが違うじゃないか。

マシューズ (陪審長に向かい合ってテーブルに着く)トランブル、理性的に考えろよ!

(リーズ、下手後方へ)

陪審長 みんな、ひとつ忘れちゃいないか。われわれは人間であると同時に市民でも あるんだ。陪審員として公平な評決を下すと誓ったんだよ。個人的な感情に 左右されてはいけないんだ。あくまで証拠から判断しなければならない。(タ ヴェルは立ち上がり、座る)そのためにわれわれはここにいるんだ――正義 を下すために。

(マシューズ、上手へ行き、冷水器から水を一杯手にし、上手に座る)

サマーズ 聞けよ、トランブル。君は理性的な男だ。(リーズ、中央下手寄りへ)ちょっ とのあいだ堅苦しい理屈から離れようじゃないか。君は正義を下したいと 言ったね。うん、わたしもそうだよ。みんなそうなんだよ。

リーズ そうさ。当然じゃないか!

フレンド その通り。

タヴェル そのためにおれたちはここにいるんだぜ!

レヴィット ごもっとも。

サマーズ しかし正義ってのは、法の厳しい規則を適用することだけじゃない。たしか に法は、殺人を犯した者は死刑と規定している。しかしわれわれはそんな文 字面の背後にあるもの、法の精神を理解しなくちゃいけないんだ。われわれ は機械じゃないんだからね。この事件は刑法を機械的に当てはめてすむよう な事件じゃない。われわれは人間的な観点からこの事件を見つめなきゃなら ないんだ。ストリックランドの立場に立って考えなきゃならないんだよ。ちょっ と考えても見ろよ。(下手前方へ)もしもミセス・ストリックランドが君の 奥さんで、トラスクが他方の当事者だったら、君はどうする?

フレンド やあ、その通りだ。

リーズ それが正しい見方だよ。

タヴェル あんただって同じことをやっただろう。(立ち上がり、陪審長に向かい合っ た席に着く)銃殺なんて、トラスクにはもったいないくらいだ!

マシューズ ああ。不文法というのがあってね――(立ち上がる)

サマーズ (遮るように)そこがあんたと意見の分かれるところだ。わたしはたいてい の場合は、人の命を奪うことに、どんな正当な理由もないと考えるが、しか しこの事件は千に一つの例外だ。このトラスクというやつはわざと親友の家 庭に入り込み、それをぶちこわしたんだ。女にはどうすることもできなかっ た。そして彼はその無力につけこんだ。だからわたしは無罪に投じたんだ。 だから君も無罪に投じるべきなんだよ。トランブル、君にも奥さんがいるだ ろう。考えても見ろ――。

ムア (下手前方へ。リーズもそのあとを追う。話しを遮る)お二人の話は論点が ずれていると思いますよ。わたしの勘違いでなければ、トランブルはあなた と同じ意見で、ストリックランドにはトラスクを殺す正当な理由がちゃんと あったと考えている。

(サマーズ、中央下手寄り後方へ)

リーズ じゃあ、なんで彼は反対なんだ?

タヴェル なんでためらっているんだ?

教えてくれよ、トランブル。

陪審長 ミスタ・ムアの言ったことは正しいよ。わたしはストリックランドにトラス クを殺す理由があったと思う。似たような状況に置かれたら、わたしだって 同じことをしていただろう。

サマーズ しかし、それでも君は有罪に票を投じるんだね。

陪審長 うん。どうしてかというと、ストリックランドが奥さんのためだけにトラス クの家へ行ったのか、確信が持てないからさ。同時に金庫から金を盗むつも りだったんじゃないかと思う。

リーズ ナンセンスだよ。(椅子のところへ行って座る)

フレンド 馬鹿馬鹿しい!

タヴェル ストリックランドは泥棒じゃないよ。(下手後方へ)

サマーズ (トランブルと反対側のテーブルの端に腰をのせて)本気でそんなこと信じ ちゃいないだろう、トランブル。ストリックランドを一目見れば、金庫破り じゃないことは確信できるはずだ。もちろん、個人的に彼を知ってるわけじゃ ないさ。しかし評判は昔から知っている。真っ正直な男だよ。実業界の誰に でも訊いて見ろよ。

フレンド いや、その通りだ!

リーズ みんな知っているよ!

タヴェル 泥棒なんかに見えるか?

陪審長 (立ち上がり下手に立つ)それは全部認める。しかし事実を避けることはで きない。思うに、ストリックランドのまわりにはガブリエル大天使を地獄に 落とせるくらい不利な状況が張り巡らされている。事実を考えてみたらいい。 ストリックランドは金銭的に窮迫していた。トラスクに一万ドルを現金で払っ ている。どうしてビジネスマンらしく小切手にしなかったんだ?

彼はトラ スクを除くと金庫のコンビネーションを知っている唯一の人間だった。そし て金庫が開いているときその場にいた。疑われて当然の状況だとは思わない か。

サマーズ (一歩奥へ)もちろん疑わしいよ。しかしどれも説明されていたじゃないか。 どうしてストリックランドがあそこにいったか、理由は分かっている。

リーズ そうだ。

フレンズ 確かに!

タヴェル みんな明らかにされているぞ!(立ち上がる)

陪審長 すべてが君らのいうように説明されているなら、二つほど教えてくれないか。 (タヴェル、席に着く)第一に泥棒はどうやって金庫を開けたんだ?

サマーズ こじ開けたんだよ。(上手に進む)

陪審長 いや、そんなことはない。警察官の証言では、錠にはなんら傷はなかった。

違うよ、賊はコンビネーションを使って開けたんだ。コンビネーションを知っ ていたのはストリックランドだけだ。

ムア そういわれると、えらく不利な状況だなあ。

エリオット そんなことないさ!

レヴィット (テーブルの端に腰掛ける)わたしは状況証拠なんか信じないね!

マシューズ おれもだ。

タヴェル 君がなんと言おうと、ストリックランドが強盗とは思えないよ!

陪審長 それだけじゃない。無罪に投票させたいなら他にも説明してもらいたいこと がある。

サマーズ なんだい?

陪審長 ストリックランドはコンビネーションの書かれた名刺を持っていた。あの名 刺が彼に対するたった一つの罪証だった。もし彼が、君らの言うように、不 法侵入してないとしたら、どうして名刺を破ろうとしたのだろう?

レヴィット 誰が破ろうとしたなんて言った?

タヴェル どうして破ろうとしたことを知っているんだね?

陪審長 ほら、ここに名刺がある!(ムア、トランブルのそばに寄ってくる)半分に 裂けそうになっているだろう? これを破ったのはストリックランドだとグ ローバーが証言したじゃないか。

レヴィット まさか!

エリオット そうだよ!

リーズ その通りだよ!

フレンズ 覚えていないなあ!

タヴェル そんなこと言わなかったぞ!

陪審長 これはかなり重要なポイントだと思うんだがね。

ムア うむ。その点を指摘してくれてよかったと思いますよ。これに関してはあな たに賛成したくなった。

陪審長 ストリックランドが名刺を破ろうとした理由は一つしかない。有罪の証拠を 隠滅しようとしたんだ。

サマーズ 名刺を破ろうとしたなんて信じないね。

レヴィット いや、破ったんだ!

リーズ いや、破っちゃいない!

タヴェル グローバーはそんなことを言ってないぞ!

ムア ちょっと待ってください。グローバーはたしかそう言っていたような気がし ます。

リーズ 言ってないよ。

マシューズ 言ったか、言わなかったか、はっきり覚えてないな。

陪審長 意見が割れているようだ。確かめるべきだろうね。

サマーズ グローバーを呼んで訊いてみよう。(上手へ)

ムア それはできません。許可を取って彼の証言を読み上げてもらわないと。

陪審長 よしきた。裁判官にメモを送るよ。(座って書き出す)

サマーズ 廷吏を呼んでくれ。(冷水器の横で水を飲む。ムア、ブザーを押す)

(暗転。幕。舞台が変わるあいだ呼び出しブザーの音)

第二場

(明転したとき法廷にブザーの音が鳴り響いている。書記、速記者、二人の廷 吏が額を寄せて話し合っている。グレイとドクタ・モーガンはテーブルに着い ている。一人の廷吏が陪審室に急いで入っていき、メモを手にしてすぐまた登 場。下手に行き裁判官室に入る)

グレイ なにかあったな。

ドクタ・モーガン (テーブルの端に腰掛け)評決が出たのかな?

グレイ (下手へ行き)たぶん。

ドクタ・モーガン 退出してどのぐらい経ったかね?

グレイ (上手に行き)ほぼ五時間。

ドクタ・モーガン どう思う?

グレイ 分かりませんね、ドクタ・モーガン。これは異常な事件ですから。

(廷吏、下手から登場)

廷吏 裁判官が入廷します。(ほかの廷吏に)弁護側に被告を連れてくるよう伝え てくれ。

(二人目の廷吏が上手から退場。一人目の廷吏は陪審室のドアを開け、上手後 方へ行く)

一人目の廷吏 陪審団、お入りください。

(医者はテーブルの背後に回る。陪審員が列をなして入場、席に座る。裁判官、 下手より登場)

書記 裁判官入廷です。

(裁判官、着席。陪審員等も着席。アーバックル、メイ、ドリス、ストリック ランド、上手から登場、上手のテーブルに座る。ストリックランドが廷吏に付 き添われてまず登場し、ついでメイとドリス登場。メイはテーブル上手側奥の 椅子に座り、ドリスを膝の上にのせる。最後にアーバックル登場、テーブルの 奥に立つ)

ディンズモア (グレイとアーバックルに)陪審団からメモを受け取りました。グローバー の証言の一部を読み上げてもらいたいとの要請です。(速記者に)グローバー の証言を見てください。名刺を破ったという部分を読み上げてください。検 察側証拠物件Aです。

速記者 (読む)ミスタ・グレイの質問「さて、ミスタ・グローバー、名刺がほぼ二 つに引き裂かれていることに注意してください。どうしてこうなったのか、 説明できますか」答え「はい。ストリックランドのポケットから名刺を取り 出したとき、彼にひったくられ、半分に裂かれそうになったんです。その前 にわたしがなんとか取り返したのですが」質問――。

(アーバックル、上手側へ行き、医師とグレイにひそひそと話しかける)

陪審長 それで結構です。(彼はほかの陪審員のほうをむく。三人が見た目にも熱を 帯びた議論を始める。その間、ドクタ・モーガンはグレイとアーバックルに 盛んに小声で話しかける)

ディンズモア それでよろしいですか、皆さん。

陪審長 お待ちください、裁判官。

(陪審長とサマーズのあいだで議論が再開される)

陪審長 裁判官、陪審はミスタ・ストリックランドに二三質問する許可をいただきた いと思います。

ディンズモア (アーバックルとグレイに)審理の再開に同意しますか。

グレイ 結構です、裁判官。

ディンズモア ミスタ・アーバックルは?

アーバックル (ストリックランドを見る。間を置いて)同意します、裁判官。

ディンズモア ミスタ・ストリックランド!(ストリックランド、立つ)証人台に立つ気が ありますか。

ストリックランド はい、裁判官。(証人台に行く)

書記 これからあなたが行う証言はすべて例外なく真実であることを神に誓います か? お名前は?

ストリックランド ロバート・ストリックランドです。

陪審長 ミスタ・ストリックランド、あなたはなぜ金庫のコンビネーションが書かれ た名刺を破こうとしたのですか。

ディンズモア 答えたくなければ答えなくてもよろしい。

ストリックランド (陪審団に)わたしは破っていません。

陪審長 破らなかったというのですか。

ストリックランド そうです。

陪審長 誰が破ったか知っていますか。

ストリックランド いいえ。

陪審長 名刺に金庫のコンビネーションが書いてあったことは知っていましたか。

ストリックランド きのう法廷で初めて聞きました。名刺に数字が書いてあるのは見ましたが、 なんのことかさっぱり分かりませんでした。住所を見てから名刺のことなん かすっかり忘れていました、この法廷で見るまでは。

(ドクタ・モーガンがアーバックルを招き、もう一度証人台にたたせてくれと 頼む身振り)

陪審長 では、ミスタ・グローバーがあなたのポケットから名刺を取ったのを、見も しなければ気付きもしなかったというのですね。

ストリックランド そうです。あのときは激痛のあまりほとんどまわりのことが分かりませんで した。

陪審長 以上です。

(ストリックランド、証人台を降りる。陪審員たちは興奮したようにささやき かわす)

アーバックル (中央へ)裁判官のお許しがいただければ、ドクタ・モーガンを再喚問いた したいと思います。

ディンズモア 異論がありますか、ミスタ・グレイ。

グレイ ございません、裁判官。

アーバックル ドクタ・モーガン。

(ドクタ・モーガン、証人台に立つ)

アーバックル ドクタ・モーガン、発砲のあった晩、被告のけがを検査しましたか。

モーガン ええ、しました。ミスタ・トラスクはもう手の施しようがないと悟り、ミス タ・ストリックランドに注意を向けたのです。

アーバックル 被告はどのような状態だったでしょうか。

モーガン 痛みにうめきながら、半ば意識を失い、床の上に仰向けに横たわっていまし た。

アーバックル 被告の腕を診ましたか。

モーガン ええ。ミスタ・グローバーと警察官が金庫を調べているあいだ、念入りに検 査しました。

アーバックル 腕の状態について説明してください。

モーガン 腕は重い杖でしたたか打たれていました。手首にまともに当たったものです から、関節が外れていました。前腕の二本の骨、つまり橈骨《とうこつ》と 尺骨ですが、これが両方ともものの見事に折れているのです。わたしの知る かぎり最悪の骨折の一つですな。

アーバックル では、ドクタ・モーガン、あなたの意見では、腕が折れてから、あなたが到 着するまでのあいだに、被告がこの名刺をこのように引き裂くことができた でしょうか。

ドクタ・モーガン できるわけありません。

アーバックル 確信がありますか。

モーガン もちろんです!

手は完全に麻痺していました。かりに心のなかではそうし たくても、肉体的に不可能だったでしょう。骨はいまだにくっついていませ ん。あのときは腕も手も一インチだって動かせなかったはずです。

アーバックル ありがとうございます。以上です、ドクタ・モーガン。(モーガン、証人台 を降り、上手テーブルの背後に行く)グローバーがどこにいるか知っていま すか、ミスタ・グレイ。

グレイ さっき見たときはわたしのオフィスで本を読んでいたが。

アーバックル (廷吏に)ミスタ・グローバーがいるか、見てきてください。(廷吏、上手 から去る。アーバックルは速記者に話しかける。緊張した待ち時間。廷吏が グローバーを連れて戻ってくる。廷吏は下手に行き、下手のドアを閉める) 証人台に立っていただけますか、ミスタ・グローバー。(グローバー、証人 台に立つ)またもやお手間をかけて申し訳ないのですが、はっきりしない点 がひとつあるのです。

グローバー わたしにできることなら喜んで――。

アーバックル ありがとうございます。覚えておいででしょうが、ミスタ・グローバー、警 察の到着を待っているとき、あなたはこの名刺が警察の役に立つかも知れな いとお考えになりましたね。

グローバー そうです。実際、役に立ちました。

アーバックル その通りです。さて、ミスタ・グローバー、そのあとであなたは名刺を探そ うとミスタ・ストリックランドのポケットを探ったことを覚えてますね。

グローバー ええ。そして名刺を見つけました。

アーバックル そうです。上着のポケットにあったんでしたね?

グローバー そうです。脇ポケットです。

アーバックル (舞台前方に行く)よかったら、その場面を詳しくお話しいただけないでしょ うか。ミスタ・ストリックランドはどこにいましたか。

グローバー 床に倒れていました。仰向けに。

アーバックル あなたは彼を見下ろす位置に立っていたんですね。

グローバー そうです。

アーバックル どちら側ですか。

グローバー 右です。

アーバックル あなたが屈んでポケットを探ったとき、彼は抵抗しましたか。

グローバー ええ、わたしを押しのけようとしました。

アーバックル なるほど。こんなふうにあなたをかわそうとしたんですね。(右腕でだれか を押しのけるふりをする)

グローバー はい。

アーバックル しかし、最後には名刺を取ったんですね?

グローバー はい。

アーバックル ええっと、上着の左の脇ポケットにあったんでしたね?

グローバー 左?(間を置いて)そうです。

アーバックル あなたが起き上がったとき、名刺は右手に持っていましたね?

グローバー そうです。

アーバックル しかしあなたが名刺を被告の手の届かないところに持っていく前に、被告は 右肘をついて身体を起こし、左手であなたの手から名刺を奪い取った。ここ までよろしいですか。

グローバー はい。

アーバックル (舞台後方へ)わたしの説明で間違ったところがあれば訂正してください。 ときどき記憶があやふやになりますので。

グローバー いいですよ。間違ったら指摘します。

アーバックル ご親切にありがとう。さて、ほかにも訊きたいことがあります。もうすこし ご辛抱願います。

グローバー かまいませんとも。

アーバックル (舞台前方へ)そうそう、ストリックランドは名刺を奪い取り、破いたんで したね。どういうふうに破いたんですか。

グローバー どういうふうに?

質問の意味が分かりませんが。

アーバックル つまり、すばやく破いたのでしょうか、それともゆっくりでしょうか、ある いは――。

グローバー かなりすばやかったですよ。わたしはすぐに名刺を取り上げたんですけど。

アーバックル なるほど。その点をはっきりさせましょう。ストリックランドは左手に名刺 を持っていた――こんな具合に。よろしいですか。

グローバー ええ。

アーバックル で、彼は右肘をついて身体を支えていた――こんなふうに。いいですね?

グローバー ええ。

アーバックル それから彼はすばやく手を後ろに引いて名刺をほとんど二つに引き裂こうと した。これでよろしいですか。

グローバー ええ。

アーバックル なるほど。で、あなたは彼の手から名刺をひったくった。

グローバー ええ。

アーバックル 名刺を取るとき、彼はあなたを脅しませんでしたか。

グローバー ええ。毒づかれましたよ。覚えてろって。

アーバックル わたしの記憶が正しければ、彼は拳銃をつかもうとした、とあなたは証言な さいましたね。違いますか。

グローバー そうです。でも手が届かなかったんです。

アーバックル (証人台にむかって行く)それできれいに説明がつきました。あなたのおか げではっきりしましたよ、ミスタ・グローバー。本当に助かりました。

グローバー とんでもない。ほかにもなにかありますか。

アーバックル いいえ、以上です。(グローバー、証人台を去ろうとする)そうだ、ちょっ とだけお待ちを。

グローバー よろしいですよ。

アーバックル 速記者にお願いしたいんだが、ドクタ・モーガンの証言の後半をミスタ・グ ローバーに読んであげてくれませんか。

速記者 ミスタ・アーバックルの質問「では、ドクタ・モーガン、あなたの意見では、 腕が折れてから、あなたが到着するまでのあいだに、被告がこの名刺をこの ように引き裂くことができたでしょうか」答え「できるわけありません」質 問「確信がありますか」答え「もちろんです!

手は完全に麻痺していまし た。かりに心のなかではそうしたくても、肉体的に不可能だったでしょう。

骨はいまだにくっついていません。あのときは腕も手も一インチだって動か せなかったはずです」

アーバックル (グローバーに)グローバー、一万ドルをどうしたんだね?

グローバー (あたふたと)なんの話しですか。どういうことです? なんの一万ドルで す?

グレイ (立ち上がって上手前方へ)裁判官、ジェラルド・トラスク殺害の共犯者と してこの男に対する逮捕令状を請求します。

グローバー (飛び上がって)違います、裁判官、違います! わたしは殺してない! お金は取ったが、殺してはいない! お金の場所なら言います。別に欲しく はないんだ。欲しくないんです!

有罪を認めます。牢屋にも行きます。で も殺人で逮捕はしないでください。本当のことを話しますよ。すべて話しま す。ストリックランドが来るとは知らなかったんです。あの晩、盗むことを 思いつきました。トラスクが金をよこしたとき、金庫に入れはしたものの、 鍵はかけなかったんです。開けたままにしておいたけど、彼は気がつかなかっ た。そのあと、金を取りに戻りました。ストリックランドのことは知らなかっ た。神にかけて本当です! わたしが忍び込んだのをミセス・トラスクが聞 きつけ、わたしは彼女の首を絞めました! でも、彼女はなんともありませ ん。けがなんかしてません。だから殺人じゃないんです! わたしはお金を 取りました。そしたらストリックランドが入ってきたんです。彼が来るなん て知らなかった。嘘じゃない。誓いますよ! わたしは殺人は犯してない。

殺人とは関係ないんだ!

部屋を出たら、銃声が聞こえて、わたしは部屋に 入った。そのとき初めて殺人があったことを知ったんだ。わたしは殺人者じゃ ない! わたしを刑務所に送るがいい。二十年の刑だってかまやしない。で も殺人罪で裁判を受けることはごめんだ。(グレイ、舞台後方へ)わたしが 名刺を破った。ストリックランドが強盗を計画していたように見せかけるた めに。彼とは共謀しちゃいない。訊いてみてくれ!

違うっていうから。彼 が来るとは知らなかった。訊いてみてくれ。わたしの言うとおりだから。(上 手に行き、テーブルをたたく)ストリックランド、彼らに言ってやってくれ。 おれたちは共謀してないと。

ディンズモア あの男を連れて行け。

(二人の執行吏が彼をつかみ、上手に引きずっていく)

グローバー ああ、裁判官、わたしは殺していないんだ。金は取ったけど、殺してはいな いんだ。連れて行かないでくれ。ちくしょう、おれは殺人者じゃない。金は 取ったが――(等々、退場するまで続く)

(廷吏、三人が退場するとドアをばたんと閉める)

ディンズモア 協議を再開してください。

陪審長 すでに評決は一致しています、裁判官。

書記 ロバート・ストリックランド!(ストリックランド、立って中央へ)被告人、 陪審団を見るように。陪審団、被告人を見るように。陪審の皆さん、評決に 達しましたか。

陪審長 達しました。

書記 どのような評決になりましたか。

陪審長 被告は無罪です!

メイ ロバート!(彼の腕に倒れ込む)

後記

翻訳底本は Internet Archive(http://www.archive.org/index.php)所収 On Trial; A Dramatic Composition In Four Acts を底本にしましたが、落丁、 誤植があるため Elmer Rice, Seven Plays (New York: Viking Press, 1950) も参照しました。この本を閲覧させてくれた藤女子大学図書館に感謝いたしま す。この翻訳は以前青空文庫に提供したものですが、今回いくつかの字句を変 更しました。