# 幽霊書店

## 第十四章 「クロムウェル伝」最後の登場

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「大馬鹿者め」半時間後、ロジャーがいった。「どうしてもっと早くに話し てくれなかったんだ？ なんてことだろう、とんでもないことが起きている ぞ！」 「あなたがなにも知らないなんて、どうしてわたしにわかるというんで す？」オーブリーはいらいらといった。「なにもかもあなたに不利なことばか りじゃないですか。あの男が自分の鍵で店のなかに入っていくのを見たら、あ なたが彼とぐるになっていると思わずにいられませんよ。まったく、古本にか まけてまわりでなにが起きているのかもわからないんですか？」 「それはいつのことだって？」ロジャーがぶっきらぼうに訊いた。 「日曜の午前一時ですよ」 ロジャーはちょっと考えていた。「そうだ、わたしはボックと地下室にいた。 ボックが吠えたので、ねずみかと思ったんだ。あの男は鍵型をとって自分で鍵 を作ったにちがいない。何百回も店に出入りしていたから、そんなことは朝飯 前だろう。『クロムウェル伝』が消えたこともそれで説明がつく。しかしなぜ だろう？ なんでそんなことをするのだろう？」 「お願いですから、急いでブルックリンに帰りましょう。なにが起きている かわかったものじゃない。女だけ残してこんなところに来るなんて、ぼくもな んてとんまなんだろう。底抜けのばかだ！」 「きみ」とロジャーがいった。「わたしこそ偽の電話にまんまとつられたと んまだよ。きみの話から察するに、ワイントラウブが一枚かんでいるのはまち がいない」 オーブリーは時計を見た。「三時をすこし過ぎてます」 「四時までは汽車がない。ということは、ギッシング通りにもどれるのはだ いたい七時ごろだ」 「電話で呼び出してください」オーブリーがいった。

彼らはまだレアリー書店の裏にある専用事務室のなかだった。この店と顔な じみのロジャーは遠慮なく電話を使った。彼は受話器をあげた。 「長距離をお願いする。もしもし。ブルックリンのワーズワース１６１７― Ｗにつないでくれ」 彼らは電話がつながるのを二十五分間苦々しく待った。ロジャーはウォー ナーと話をしに外に出、そのあいだオーブリーは裏の事務室でいら立っていた。 じっと座っていることができず、じれったそうにそわそわと小部屋を行ったり 来たりして、数分ごとにポケットから時計をむしり取るようにして見た。漠然 とした恐怖に心が乱れ、ものを考えることができなかった。頭のなかでぼそぼ そとしゃべる悪意にみちた電話の声が繰り返された――「ギッシング通りは危 ないぜ」橋の上での取っ組み合い、路地のささやき声、調剤台に立つ薬屋の忌 まわしい顔が思い出された。一連の出来事は途方もない夢にすぎないように思 われたけれども、しかし彼は不安におののいていた。「ぼくがブルックリンに いれば」と彼はうめいた。「まだしもましなのだが。彼女の身に危険が迫って いるかも知れないというときに、何百マイルも離れた、これまた呪われた本屋 のなかにいるのだから――くそっ！

今回の事件がうまく片づいたら、あとは 死ぬまで本屋の仕事には手を出さないぞ！」 電話が鳴り、オーブリーは外で話をしているロジャーを半狂乱になって手招 きした。 「自分で出たまえ、ばかだな！

切れてしまうぞ！」 「だめなんです。ティタニアはわたしの声を聞いたら、切ってしまうんです。 わたしのことを怒っているんです」 ロジャーが電話のところに走ってきた。「もしもし、もしもし？」彼はぷり ぷりしながらいった。「もしもし、そちらはワーズワース――？ そうだよ、 ブルックリンを呼び出しているんだ――もしもし！」 ロジャーの肩越しに身を乗り出したオーブリーは、受話器のかちりという音 につづいて、信じられないほどはっきりと、か細い、銀をならすような遠くの 声を聞いた。それは忘れもしない声だった！ まわりの空気がその声に震える ような気がした。彼の耳にはどの言葉もはっきりと聞こえた。熱い汗が額と手 のひらに噴き出した。 「もしもし」とロジャーがいった。「ミフリンの本屋だね？」 「そうです」とティタニアがいった。「ミスタ・ミフリン、あなたですか？ どこにいらっしゃるんです？」 「フィラデルフィアだよ。なにか不都合は起きてないかい？」 「順調ですわ。本を売りまくっているんですよ。ミセス・ミフリンは買い物 に出かけました」 オーブリーは鳥のさえずりのような、どこか遠くの星がチリンと鳴っている ような、小さい軽やかな声を聞くと身体が震えた。薄暗い本屋の奥で電話口に 立つ彼女の姿が目に浮かんだ。まるで望遠鏡を逆さまにのぞいたようにひどく こぢんまりとした、非の打ち所のない姿が見えるようだった。なんて勇敢で気 品に満ちているのだろう！ 「いつお帰りになりますか？」彼女はそういっていた。 「七時くらいだよ」ロジャーがいった。「本当になにも問題はないんだ ね？」 「ええ、もちろん。とっても楽しくやっていますわ。たった今、下に行って、 すこしだけかまどに石炭をくべてきたんです。ああ、そうだわ。ミスタ・ワイ ントラウブがついさっきやってきて、本のスーツケースを置いていきました。 あなたなら気になさらないだろうっておっしゃってました。友達が今日の午後、 それを取りに来るそうです」 「ちょっと切らずに待ってくれ」ロジャーはそういい、通話口を手で押さえ た。「ワイントラウブが本のスーツケースを店に預けて、あとでだれかに取り に来させるそうだ。どう思う？」 「たいへんですよ。本には手を触れないようにいってください」 「もしもし」ロジャーがいった。身体を乗り出したオーブリーは小柄な書店 主の毛のない脳天にぐるりと水晶のような汗が浮いているのに気がついた。 「もしもし？」ティタニアの妖精のような声がすぐに返事をした。 「スーツケースを開けたかね？」 「いいえ。鍵がかかっているんです。ミスタ・ワイントラウブはお友達にさ しあげる古本がたくさん詰まっているんだとおっしゃっていました。すごく重 たいんです」 「よく聞いてくれ」ロジャーがいった。声が鋭く響いた。「重要なことなん だ。そのスーツケースにはけっしてさわってはいけない。そのままにしておい て、絶対さわってはいかん。約束してくれ」 「わかりましたわ、ミスタ・ミフリン。安全な場所に置いておきますか？」 「さわってはいかん！」 「ボックがいまにおいを嗅いでいます」 「さわってはいけない。ボックにもさわらせてはだめだ。な――なかには貴 重な原稿が入っている」 「気をつけますわ」 「さわらないと約束だよ。それからもう一つ――だれか取りに来ても、わた しが家に帰るまで持って行かせてはいかん」 オーブリーはロジャーの前に腕時計をさし出した。ロジャーはうなずいた。 「わかったかい？ ちゃんと聞こえているかい？」 「ええ、とてもよく聞こえます。すごいんですね！ わたし、長距離電話は 初めてだから――」 「鞄にはさわらないこと」ロジャーがしつこくいった。「それからわれわれ が――わたしが帰るまでだれにもわたさないこと」 「お約束しますわ」ティタニアがほがらかにいった。 「それじゃ、また」ロジャーはそういって受話器を置いた。彼の顔は奇妙に 引きつって見え、目の下のくぼみに汗が浮いていた。オーブリーはもどかしげ に腕時計を見せた。 「ぎりぎり間に合うぞ」ロジャーはそう叫び、二人は店を飛び出した。

それは楽しい旅ではなかった。汽車はいつものようにウエスト・フィラデル フィアからノース・フィラデルフィアへいったん遠まわりして目的地を目指し た。二人の旅行者は、郊外からの乗客を、結び目のある鞭でひっぱたくのでは なく、のんびりぞろぞろと乗車させる制動手にたいして個人的な憎しみを覚え た。急行がトレントンで停まったとき、オーブリーは罪のないその都市を曲射 砲で粉々に粉砕してやりたいと思った。プリンストン・ジャンクションで思い もよらぬ停車をしたときは、とうとう我慢ができなくなった。オーブリーが公 務員たる車掌に話しかけるその口ぶりは国家にたいする反逆者のようだった。

灰色のわびしい冬の夕闇が雪の気配とともにおりてきた。彼らはしばらくの あいだ黙って座っていた。ロジャーはフィラデルフィアの夕刊を開いてヨー ロッパに旅立つことを発表する大統領演説に読みふけり、オーブリーは先週の 行動を陰鬱に思い返していた。頭はずきずきと痛み、手は不安のために湿っぽ く、そのせいでたばこの屑がいやらしいほどくっついてきた。 「おかしな話ですね」とうとう彼はいった。「先週の今日、わたしははじめ てあなたの店を知りました。それが今では地球上でいちばん大切な場所みたい に思えます。夕ご飯をご馳走していただいたのはつい先週の火曜日。それから わたしは二度頭をかち割られ、無法者に自分の寝室で待ち伏せをされ、ギッシ ング通りを二晩徹夜で見張り、うちの代理店が扱っている最大の顧客を失いそ うになったんです。お店に幽霊がいるとおっしゃるのももっともですよ！」 「それを使ってすてきな宣伝文句ができるんじゃないか？」ロジャーは不機 嫌そうにいった。 「さあ、どうでしょうかね。広告のネタとしてはちょっと暴力的すぎるかな。 あなたはなにが起きていると思います？」 「さっぱりわからない。ワイントラウブは二十年以上もあの薬屋を経営して いる。わたしが本屋をはじめるずっと前から、あいつの店のことは知っていた。 なかなかの読書家で、とりわけ科学の本に関心をもっていた。わたしがギッシ ング通りに店を出したとき、仲よくなったんだ。顔つきはどうも気に入らない が、しかしおとなしい、気だてのよい男のように思えたがね。きみの話じゃ、 違法な薬かドイツ製の焼夷弾を製造しているような感じだな。戦争中はずいぶ ん火事が起きたじゃないか――ブルックリンの大穀物倉庫とか」 「わたしは最初、誘拐を企んでいるのかと思いました」オーブリーがいった。 「あなたがミス・チャップマンを店におきざりにして、ほかのやつらにこっそ り連れ出させるつもりなんだと思っていました」 「わたしに極悪人という名誉ある烙印を押してくれていたのか」ロジャーは いった。 オーブリーの唇が興奮していい返したげに震えたが、雄々しく耐えた。 「なぜクロムウェルの本に興味を持ったんです？」彼は間をおいて尋ねた。 「ああ、なんで読んだのかな――二、三年前のことだ――あれはウッドロ ウ・ウィルソンの愛読書の一つだそうだ。それで興味を持って読んでみたの だ」 「そういえば」オーブリーが勢い込んでいった。「表紙に書かれていた例の 数字を見せるのを忘れていました」彼はメモ帳を取りだし、写しを見せた。 「ふむ、この一つは意味がはっきりしている」ロジャーがいった。「ほら、 329ff. cf. W. W.とあるね。これは単に『３２９ページ以下を見て、ウッドロ ウ・ウィルソンと比較せよ』ということさ。最近わたしがそれを書きつけたん だ。というのはその一節がウィルソンの考え方と似ていると思ったからだ。と くにおもしろいページの番号は本の裏に書きつけることにしているんだ。ほか のページ番号は本がないとなんのことだかさっぱりわからないな」 「じゃあ、最初の数字はあなたの字なんですね。でもその下にあるのはワイ ントラウブの字ですね――ともかくも彼が使っているインクで書かれていた。

彼があなたの本に暗号らしきものを書きつけているのを見て、当然ながらあな たと彼は共謀しているんだと思ったんです――」 「きみはこの表紙を薬局で見つけたそうだな？」 「ええ」 ロジャーは眉を寄せた。「どういうことなんだろう。とにかく、むこうに着 くまでわれわれにはなにもできない。新聞を見るかね？

今朝議会でウィルソ ンが行った演説がのっている」 オーブリーは暗い顔で頭を振り、熱い額を窓ガラスにあてた。二人はマン ハッタン乗換駅に着くまで押し黙ったままだった。それからハドソン・ターミ ナル行きに乗り換えた。 アトランティック・アヴェニューの地下鉄終着駅から二人が急いで出てきた のは七時だった。じめじめと湿った寒い晩だったが、通りにはすでに夜ごとの 光と色があふれ活気づきはじめていた。質屋の黄色い明かりを見て、オーブ リーはポケットに小型拳銃をしのばせていることを思い出した。暗い路地を通 り抜けながら、彼は脇によって武器に弾を込めた。 「こういうものを持っていますか？」彼はそれをロジャーに示しながらいっ た。 「まさか、とんでもない」と書店主はいった。「わたしをなんだと思ってい るんだ――映画のヒーローかね？」 ギッシング通りを進む若者の歩みがあまりにも早足なものだから、ロジャー はついて行くのに駆け足にならざるを得なかった。この小さな通りのおだやか な眺めには心安らぐものがあった。店の窓々からこぼれ出る光が道に縞模様を 描いていた。ワイントラウブの薬局では、青白い顔の店員が染みのついた白衣 を着て、大コップにココアをそそいでいた。文房具屋では客がクリスマスカー ドの仕切り棚を眺めていた。オーブリーはミルウォーキー・ランチでのんびり ドーナツをコーヒーカップにひたしている体格のいい市民を見、うらやましく 思った。 「なにもかも嘘みたいだな」とロジャーがいった。

本屋に近づいたときオーブリーの心臓は不安に締めつけられた。正面窓のブ ラインドがおろされていた。薄明かりが漏れているところを見ると、なかは電 灯がともされているのだろう。しかし閉店の時間までまだ三時間もあるのに、 なぜブラインドがおりているのだろうか？

彼らは正面ドアにたどり着いた。オーブリーが取っ手をつかもうとすると、 ロジャーが彼を押しとどめた。 「ちょっと待ってくれ。音を立てないように入ってみよう。なにかおかしな ことが起きているのかもしれない」 オーブリーはそっと取っ手を回した。ドアは鍵がかかっていた。 ロジャーは鍵を取りだし、音を立てないようにして錠をはずした。それから ドアをかすかに――一インチほど押し開けた。 「きみの方が背が高いな」と彼はささやいた。「手を伸ばしてドアを開けた とき、上の鐘が鳴らないように押さえてくれ」 オーブリーは三本の指を隙間から突き出し、鐘が打ち鳴らされないようにト リガーを押さえた。ロジャーはドアを大きく開き、彼らは忍び足でなかに入っ た。

店にはだれもおらず、一見したところ異常はなかった。彼らはどきどきしな がら、つかの間そこに立ちつくした。

家の奥のほうから、澄んだ、どことなく怯えた声が聞こえた。 「好きにするがいいわ。でもどこにあるか教えないから。ミスタ・ミフリン の言いつけですもの――」 椅子が床にたたきつけられ、あわただしく動きまわる音が聞こえた。 オーブリーはすばやく通路を抜け、ロジャーもドアを閉めるとすぐその後に つづいた。彼は店の奥の登り段をこっそりとあがり、食事室をのぞいた。その 光景を目にした瞬間、まるで部屋全体が揺れ動いているような気がした。

夕食用のテーブルクロスが広げられ、つるしランプの下で白く光っていた。 むこう端にはティタニアが髭の男につかまれもがいていた。オーブリーは一目 で男がシェフだとわかった。テーブルのこちら側には拳銃を彼女にむけて立っ ているワイントラウブがいた。背中をドアにむけている。オーブリーは薬屋の 無愛想な顎がしわくちゃになり、怒りに震えているのを見た。

二歩踏み込むと部屋のなかだった。彼は拳銃の銃口を脂ぎった頬に突きつけ た。「そいつを捨てろ」彼はしわがれた声でいった。「このドイツ野郎！」左 手で相手のシャツ・カラーをつかみ、ぐいと首を絞めた。彼は怒りと興奮に震 え、奇妙に腕に力が入らなかった。最初に考えたのはこんな豚のような首を絞 めることなど、とても無理だということだった。

一瞬、その場の者は息を詰め、動きを止めた。髭の男はティタニアの肩から 手を放さなかった。彼女は顔色こそ真っ青だったが目は輝いており、信じられ ないといった驚きの表情でオーブリーを見た。ワイントラウブは両手を食事 テーブルについて、考えごとをしているかのようにじっと立っていた。彼は頬 のくぼみに冷たい金属が押し当てられているのを感じた。ゆっくりと右手を開 くと拳銃がリンネルの布の上に落ちた。ロジャーが部屋に飛び込んできた。 ティタニアは身をよじってシェフから離れた。 「スーツケースはわたしませんでした！」彼女は叫んだ。 オーブリーは拳銃をワイントラウブの顔に押しつけつづけた。彼は左手で薬 屋の拳銃を取り上げた。ロジャーはテーブルの反対側にぼんやりと立っている シェフにつかみかかろうとした。 「ほら」とオーブリーがいった。「この銃を使ってください。そいつに狙い をつけるんです。こっちはわたしに任せて。彼には借りがあるんでね」 シェフは後ろの窓から飛び出そうとしたが、オーブリーが彼に飛びかかった。

男の鼻をまともに殴りつけ、拳骨の下で肉がゴムのようにひしゃげると、えも いわれぬ快感が走った。彼は髭もじゃの喉をつかんで指を食い込ませた。相手 はテーブルの上のパン切りナイフをつかもうとしたが遅すぎた。彼は床に倒れ、 オーブリーは荒々しく喉を締めつけた。 「このドイツの糞ったれめ」と彼はうなった。「取っ組み合いがしたいなら 女の子を相手にするんだな」 ティタニアは部屋から飛び出し、食器室を駆け抜けていった。 ロジャーはワイントラウブの銃をドイツ人の顔の前にかまえていた。 「おい。これはどういうことだ？」 「誤解だよ」薬屋はおだやかにいった。しかし目は落ち着かなげにきょろ きょろしている。「午後早くにここに預けた本を取りに来ただけだよ」 「拳銃を持ってかね？

答えろ、ヒンデンブルグ（註 第一次大戦中、東部 戦線でロシアを破ったドイツ陸軍元帥）、どういうつもりだったんだ？」 「わたしの拳銃じゃない」とワイントラウブがいった。「メツガーのだよ」 「スーツケースはどこだ？」とロジャーがいった。「見てみようじゃない か」 「これはばかばかしい誤解だよ」とワイントラウブがいった。「メツガー宛 に古本のスーツケースをここに置いていったんだ。今日の午後は町の外に行く 予定だったからね。彼がそれを取りに来たら、きみのところの若い娘さんがわ たそうとしないんだ。彼はわたしのところに来て、わたしは彼女にわたしても 大丈夫だといいに来たのさ」 「あいつはメツガーというのか？」ロジャーはオーブリーの手を逃れようと している髭の男を指さしながらいった。「ギルバート、そいつを窒息させるな よ。説明してもらいたいことがある」 オーブリーは立ちあがって落ちた拳銃を床から拾い、ついでシェフをつつい て起きあがらせた。 「この豚め。この前の晩、階段を転げ落ちたのは楽しかったか？ ヘア・ワ イントラウブ、あんたが地下室でいったいなんの薬を調合しているのか教えて ほしいね」 ワイントラウブの顔は電灯の光のなかで沈んで見えた。額には汗がびっしり 浮いている。 「ミスタ・ミフリン」と彼はいった。「こんなくだらないことってありませ んよ。わたしがついむきになったばかりに――」 ティタニアは走って部屋にもどって来た。そのあとから顔を真っ赤にしたヘ レンが来た。 「助かったわ、あなたがもどってきて、ロジャー」彼女はいった。「この野 蛮人たちは台所でわたしを縛りあげ、口をタオルでふさいだのよ。スーツケー スを出さなかったらティタニアを撃つって脅したのよ」 ワイントラウブはなにかをいいかけたが、ロジャーは彼の眉間に拳銃を突き つけた。 「黙っていろ！ おまえたちの本とやらを見せてもらおうじゃないか」 「スーツケースを取ってきます」とティタニアがいった。「隠してあるんで す。ミスタ・ワイントラウブが取りに来たとき、最初はわたそうかと思ったん だけど、様子がおかしかったので、なにかよからぬことを企んでると思った の」 「さわっちゃだめです」オーブリーはいった。二人ははじめて目を合わせた。 「どこにあるのか教えてください。ドイツの友人に運ばせましょう」 ティタニアの顔がかすかに赤らんだ。「わたしの寝室の押し入れのなかな の」 彼女は先に立って階段をのぼり、そのあとをメツガーが従った。オーブリー がメツガーの後ろでいつでも撃てるようにピストルをかまえていた。寝室のド アの外でオーブリーは立ち止まった。「スーツケースの場所を教えて、彼に持 たせてください。おかしな真似をしたら声をあげるんですよ。わたしが拳銃を 撃ちますから」 ティタニアは押し入れの服の後ろにしまい込んだスーツケースを示した。 シェフは反抗する気配も見せない。三人は一階にもどった。 「ようし」とロジャーがいった。「店舗に移動したほうがよく見えるだろう。 もしかしたらシェイクスピアのファースト・フォリオが入っているかもしれな い。ヘレン、電話でマクフィー通りの警察署を呼び出してくれ。すぐこっちに 警官を二人ほど寄こすように頼むんだ」 「ミスタ・ミフリン」とワイントラウブがいった。「こんな愚にもつかない ことはやめましょうよ。おりおり集めた古本が何冊か入っているだけなんです から」 「自分の家に押し入られ、妻を物干し綱で縛られ、若い娘を撃つぞと脅され たんだ。愚にもつかないとはとても思えん。はたして警察はどう考えるだろう な、ワイントラウブ。妙なまねはするな。逃げようとしたら脳味噌を吹き飛ば してやる」 オーブリーが先に立って店舗のほうへおりて行き、メツガーがスーツケース を運んだ。そのあとにロジャーとワイントラウブが従い、ティタニアがしんが りだった。随筆のアルコーヴの明るい光の下で、鞄をテーブルに置くよう、 オーブリーはシェフに命じた。 「開けろ」彼はぶっきらぼうにいった。 「ただの古本だ」メツガーがいった。 「うんと古いものなら価値があるかも知れない」ロジャーがいった。「わた しは古本に興味があってね。さっさとしろ！」 メツガーはポケットから鍵を引っ張り出し鞄を開けた。オーブリーは彼が蓋 を開けるあいだ、頭にピストルを突きつけていた。 スーツケースには古本がぎっしり詰まっていた。ロジャーはいたって冷静に ワイントラウブを見張っていた。 「なかになにが入っているんだ？」 「あら、やっぱり本が詰まっているだけなのね」ティタニアが声をあげた。 「わかっただろう」ワイントラウブがむっつりといった。「怪しいところな んかあるものか。わたしのせいでこんなことになり――」 「あら、見て！」とティタニアがいった。「クロムウェルの本があるわ！」 ほんの一刹那ではあったが、ロジャーは注意を奪われた。彼は思わずスーツ ケースのほうを見、その隙に薬屋は彼を振り切って通路を駆け抜け、ドアの外 に飛び出した。ロジャーは跡を追ったが、手遅れだった。オーブリーはメツ ガーの襟を捕まえ、頭にピストルを当てていた。 「しまった」と彼はいった。「どうして撃たなかったんです？」 「わからないよ」ロジャーが狼狽していった。「撃つのが怖かったのだ。気 にするな。あとでも捕まえられる」 「警察がすぐここに来るそうよ」ヘレンが電話口から呼びかけた。「ボック を家に入れるわ。いま裏庭にいるから」 「二人とも頭が変なのよ」とティタニアがいった。「クロムウェルを棚にも どして、この人も追い返しちゃいましょう」彼女は本に手を伸ばした。 「待て！」オーブリーが叫んで、彼女の腕をつかんだ。「その本に触れちゃ いけない！」 ティタニアは彼の声に怯えて手を引っ込めた。みんな正気を失ってしまった のかしら？ 「さあ、ミスタ・メツガー」オーブリーがいった。「元通りその本を棚にも どすんだ。逃げようなんて思うな。こっちは拳銃で狙っているんだからな」 彼とロジャーはシェフの顔に驚いた。もじゃもじゃの髭の上で彼の目がなか ば狂気じみた光を放ち、両手が震えていたのだ。 「いいだろう。どこに置けばいいのか教えてくれ」 「わたしが教えてあげる」とティタニアがいった。 オーブリーが彼女の目の前に腕を伸ばして押しとどめた。「あなたはそこに いて」彼は怒ったようにいった。 「歴史のアルコーヴだよ」ロジャーがいった。「正面のアルコーブで、通路 の反対側だ。われわれ二人とも銃をむけているからな」 スーツケースから本を取り出すかわりに、メツガーは鞄を横にしたまま持ち 上げた。彼は指示されたアルコーヴにそれを持って行った。注意ぶかくケース を床に置き、クロムウェルの本を取り出した。 「どこに置くんだ？」彼は異様な声でいった。「こいつは貴重な本なんだ」 「五番目の棚だよ」とロジャーがいった。「こっちだ――」 「いけない、下がってください」オーブリーがいった。「近寄ってはいけま せん。なんだか様子が変だ」 「この間抜けども！」メツガーが荒々しく叫んだ。「おまえたちも古本も地 獄に堕ちろ」彼は本を投げつけようとするかのように腕を後ろに振りかざした。 ぱたぱたとすばやい足音がして、ボックがうなりながら通路を走ってきた。

同時にオーブリーは訳のわからない衝動に従い、ロジャーを小説のアルコーヴ に突き飛ばし、ティタニアを乱暴に抱きかかえると店の奥にむかって駆けだし た。 メツガーの腕があがり、本を投げようとしたとき、ボックが突進してきて、 男の足に噛みついた。クロムウェルが手から落ちた。

地を揺るがす爆発、鈍い轟音がとどろき、オーブリーは一瞬本屋がまるごと 巨大な独楽になったのかと思った。床が持ち上がり沈み込んだ。棚の本はあら ゆる方向に吹き飛んだ。ティタニアを抱えながら、住居部分に通じる登り段に たどり着いたとき、彼らは横に吹き飛ばされ、ロジャーの机の後ろの角に転 がった。空中には本が舞っていた。百科事典の列が肩の上に落ちてきて、あや うくティタニアの頭に当たるところだった。正面の窓は一斉に砕け散った。ド アの近くの机は反対側の回廊まで飛び上がった。歴史のアルコーヴの上の回廊 はめりめりと音を立てて崩れ、何百冊という本が床にどうと落ちた。明かりは 消え、一瞬すべてがしんと静かになった。 「大丈夫かい？」オーブリーが慌てて訊いた。彼とティタニアは、書店主の 机に身体を押しつけるようにして倒れていた。 「大丈夫みたい」彼女はかすかな声でいった。「ミスタ・ミフリンはど こ？」 彼女を助け起こそうと手をさしのべると、床の上に湿ったものを感じた。 「大変だ」と彼は思った。「彼女は死にかけているんだ！」彼はもがきながら 暗闇のなかに立ちあがった。「聞こえますか、ミスタ・ミフリン」と彼は呼び かけた。「どこにいるんです？」 答えはなかった。

一筋の光が店の奥からあふれてきた。落下した残骸のあいだを足場を確かめ ながら歩いていくと、ミセス・ミフリンが食事室のドアの脇にふらつきながら 立っているのを見つけた。家の奥は明かりがついたままだった。 「蝋燭はありますか？」 「ロジャーはどこなの？」彼女は哀れな声を出し、台所によろよろと入って いった。

蝋燭を持ったオーブリーは床の上に座っているティタニアを見つけた。ひど くぼんやりしていたが、怪我はなかった。彼が血だと思ったものはロジャーの 机の上にあったクォート瓶入りのインクだった。彼は子供を抱えるように彼女 を立たせ、台所に運んだ。「ここにいてください。動かないで」 その頃までにはすでに群衆が舗道に集まっていた。だれかが手提げランプを 持って入ってきた。三人の警官がドア口にあらわれた。 「お願いします」オーブリーが大きな声を出した。「ここに明かりを持って きてください。様子がわかるように。ミフリンがこの瓦礫のどこかに埋まって いるのです。だれか救急車を呼んでください」 幽霊書店の正面はめちゃくちゃになっていた。手提げランプの淡い光は悲惨 な光景を浮かびあがらせていた。ヘレンが吹き飛ばされた通路を手探りしなが らやってきた。 「彼はどこ？」彼女は取り乱して叫んだ。 「トロロープ全集のおかげだな」小説のアルコーヴの残骸のなかから声がし た。「助かったようだ。本が衝撃を吸収する力はたいしたものだ。怪我した人 はいるかい？」 ロジャーだった。気を失いかけていたが、無事だった。彼は身体の上に倒れ てきた棚の下からはい出してきた。 「そのランプをこっちに持ってきてくれ」オーブリーはそういって、ロ ジャーの掲示板の破片の下に横たわる黒い固まりを指さした。 シェフだった。彼は死んでいた。そして彼の足にしがみついていたのはボッ クのなれの果てだった。

