# 幽霊書店

## 第十章 ロジャー、冷蔵庫をあさる

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ちょうどロジャーがカーライルの「クロムウェル伝」を歴史アルコーヴのあ るべき場所にもどしたとき、ヘレンとティタニアが映画から帰ってきた。ボッ クは主人の椅子の下でうたた寝していたのだが、礼儀正しく起きあがると敬意 をあらわすように尻尾を振った。 「ボックってしぐさにとっても愛嬌があるわ」とティタニアがいった。 「そうね」とヘレンが応えた。「あれだけ尻尾を振っても筋肉がぜんぜんす り切れないんだから、ほんとうに驚いちゃうわね」 「それはそうと」とロジャーはいった。「楽しかったかい？」 「とっても！」ティタニアがあまりにも顔を輝かせ、きらめく声でそういっ たものだから、かびくさい常連客二人が「随筆」と「神学」のアルコーヴから 頭を突き出し、びっくりしたように彼女を見たくらいである。そのうちの一人 は三人に近づいて驚いた目を満足させようと、むさぼるように読んでいた リー・ハントの「ウィッシング・キャップ新聞」をわざわざ買い求めた。ミ ス・チャップマンが本を受け取り包装したとき、彼の驚きは頂点に達した。

自分が売り上げを伸ばすのに一役買っているとも知らずに、ティタニアは話 をつづけた。 「途中であなたのお友達のミスタ・ギルバートに会ったんですよ。それで一 緒に映画に行ったんです。月曜日にお店に来て、あなたが留守のあいだに、か まどを修理するとかいっていました」 「それはそれは。広告代理店というのはじつに商売熱心だねえ。ちょっとで も広告業務を請け負う可能性があれば、従業員を送り込んでかまどの面倒まで 見させるんだから」 「静かな夜が過ごせた？」ヘレンがいった。 「ずっとアンドリューに手紙を書いていたんだ。でも面白いことが一つあっ たよ。例の『フィリップ・ドルー』が売れたんだ」 「まさか！」ヘレンが大声を出した。 「ほんとうだよ。客が本を見ていたんで、作者はハウス大佐（註 外交官で ウィルソン大統領の腹心）らしいといったんだ。ぜひ売ってくれといわれたよ。 しかし読み出したらえらくがっかりするだろうなあ！」 「ハウス大佐が書いたんですか？」ティタニアが訊いた。 「さあね」ロジャーがいった。「そうじゃないことを願うよ。わたしはミス タ・ハウスは有能な人物だとひそかに信じている。もしもあれを書いたのだと したら、パリの講和会議の場で外国政治家にその事実がばれないことを切に願 う」 ヘレンとティタニアが外套を脱いでいるあいだに、ロジャーは忙しく店を閉 めていた。彼はボックと通りの角まで行って手紙を投函した。居間にもどって くると、ヘレンが大きなポットにココアを用意していた。彼らは暖炉のそばに 座りそれを味わった。 「チェスタートンがココアをこっぴどく非難する詩を書いている」とロ ジャーがいった。「『さまよえる居酒屋』に出てくるんだが、しかしわたしは 理想的な夜の飲み物だと思うよ。ゆったり心を鎮めてくれて、眠りに誘ってく れる。とびきり激しい哲学的苦悩もミセス・ミフリンのココアが三杯あれば癒 される。ショーペンハウエルだってスプーン一杯のココアとコンデンスミルク の缶があれば一晩じゅう読んでいられるというものだ。もちろんコンデンスミ ルクを入れなければいかんよ。そういうものだと決まっているんだ」 「こんなにおいしいものとは知らなかったわ」ティタニアがいった。「たし かにお父さんは工場の一つでコンデンスミルクを作っていますけど、自分がい ただこうなんて夢にも思いませんでした。探検家だけが食べるものと思ってい たんですもの、北極に行く人とかが」 「うっかりしていた！」ロジャーが叫んだ。「きみに話すのをすっかり忘れ ていた！

夕方二人が出かけたあと、すぐにお父さんから電話があって、調子 はどうだと尋ねていたよ」 「あら。はじめてのお仕事なのに、二日目にもう映画に出かけたと聞いて、 お父さん、きっとあきれていたでしょうね！ 『まったくあの娘は』なんて いったんじゃないかしら」 「わたしがミセス・ミフリンと出かけるように勧めたんだと説明しておいた よ。気分転換が必要だと思ったんだってね」 「お願いですから、お父さんがいうことなんか真に受けないでくださいね。 お父さんたら、わたしの見かけがうわついているから、心も浮ついていると 思っているの。でもわたし、ここでいい仕事をしたいと思ってやる気満々なん ですよ。午後はずっと包装の練習をして、紐を切らずに上手に結び目が作れる ようにしました。先に紐を切ってしまうと、短すぎて縛れなかったり、長すぎ てちょっぴりむだになったりするんですね。それから包装紙でカフスを作って 袖を汚さないようにすることも覚えました」 「おいおい、わたしの話はまだ終わってないよ」とロジャーがつづけた。 「お父さんは明日わたしたちみんなを家に招待するというんだ。買ったばかり の本を見てもらいたいんだそうだよ。それにきみがホームシックにかかってい るんじゃないかと思っているらしい」 「なんですって。こんなにすてきな本があるっていうのに？ ばかばかしい！

半年は家に帰る気がしないわ！」 「いやとはいわせないつもりだよ。明日の朝いちばんにエドワードを迎えに 寄こすようだ」 「おもしろそうね！」ヘレンがいった。「楽しみだわ」 「とんでもないです。このすてきな本屋さんを離れてラーチモントで日曜を 過ごすなんて。でも、いいわ、うっかり置いてきたジョーゼットのブラウスが 取りに行けるから」 「何時に車が迎えに来るの？」ヘレンが訊いた。 「ミスタ・チャップマンは九時ごろだといっていたがね。できるだけ早くに 出るようにといわれたよ。一日本を見てほしいそうだ」 彼らがしだいに消えていく石炭の火を囲んで座っているとき、ロジャーは自 分の蔵書の棚を見まわしはじめた。「ギッシングは読んだことがあるかい？」 と彼はいった。 ティタニアはミセス・ミフリンにむかって悲しげな仕草をした。「そういう ことを訊かれるとすごく困っちゃう！ いいえ、聞いたこともありません」 「そうか。家の前の通りは彼にちなんで名前がつけられているので、知って おくべきだと思うな」彼は「蜘蛛の巣の家」を引っ張り出した。「これからわ たしが知るいちばん素晴らしい短編小説の一つを読んであげよう。題名は『ゆ かしい家族』だ」 「だめよ、ロジャー」ミセス・ミフリンが断固としていった。「今晩はいけ ないわ。十一時だし、ティタニアは疲れているじゃない。ボックだって犬小屋 に引っ込んだのよ。あなたよりよっぽど常識があるわ」 「よしよし」書店主は素直にいった。「ミス・チャップマン、よかったら本 を持っていって寝床のなかで読みなさい。きみは閨房閲覧者《リブロキュビ キュラリスト》かい？」 ティタニアは目を白黒させた。 「驚くことはないわよ」ヘレンがいった。「ベッドで本を読むのが好きかっ て訊いているだけ。あの単語が出てくるのを、わたし、いまかいまかと待って いたの。うまく使えたので、彼はご機嫌よ」 「ベッドで読書ですか？

変わっていますね！ そんなことする人がいるん でしょうか？

考えたこともなかったわ。ベッドに入ったら眠たくて眠たくて、 そんなことをしようなんて思う暇もないわ」 「それじゃ、お二人ともお休みなさい」とロジャーがいった。「美容のため に寝たほうがいい。わたしもすぐ寝るよ」 そう話したときはそのつもりだったのだが、店の奥の机にもどると彼はバー トンがいうところの「不安を鎮める」本を納めた自分の蔵書の棚の上に視線を 落とした。この棚には「天路歴程」、シェイクスピア、「憂鬱の解剖」、「家 庭版詞華集」、「ジョージ・ハーバート詩集」、サミュエル・バトラーの 「ノートブックス」、「草の葉」が並んでいた。彼は「憂鬱の解剖」を取り出 した。真夜中に拾い読みをするならこれ以上におもしろい本はない。お気に入 りの一節「心に安らぎを与える脱線 数々の不満を癒す方法」をめくっている と、本にひきこまれて、時計のかちかちと時を刻む音すら耳につかなくなる。

唯一身体に残った意識はときどきパイプの灰を捨て、詰め直し、火をつけるの に必要な動作をするだけだった。毎日退屈な仕事のあれやこれやに追われる人 間にとって、ひとりの時間は貴重な宝石である。ロジャーは貪るように真夜中 の黙想にふけった。ロバート・バートンやジョージ・ハーバートのような信頼 できる伴侶とはいつも打ち解けたつきあいをしてきた。孤独なオックスフォー ドの学者バートンがみずからの憂鬱を「癒す」ためにあの膨大な本を書いたの だと思うと彼は愉快な気持ちになったものだ。 かびくさい古いページをめくっていくうちに、やがて「眠り」に関するつぎ のような一節にぶつかった――

夕ご飯を食べて二、三時間後が最適である。その頃には食べ物が胃袋の底に落 ち着いているからだ。まず右の脇腹を下にして寝るのがよい。その位置だと肝 臓が下になるので、胃は圧迫されず、火の上に置かれたやかんのように暖めら れるからである。寝入りばなに左側を下にすると食べ物がいっそう降下する。

時にはうつぶせもいいが、仰向けは絶対いけない。睡眠時間は憂鬱症の人間に は七、八時間がちょうどよい――

そうだとすれば、わたしも寝る時間だな、とロジャーは考えた。時計を見る と十二時半だった。明かりを消してかまどの火を見に台所にもどった。

作者としては家庭内のいざこざに触れることはためらわれるのだが、ここは 思い切ってロジャーが夜の見まわりの最後に必ず冷蔵庫にむかうことを申し上 げねばならない。冷蔵庫のものを盗み食いすることについては二つの説があり、 一つは夫の立場からの説、もう一つは妻の立場からの説である。夫は（単純な ものだから）冷蔵庫内のごちそうをどれも少量ずついただいて、食べ物への略 奪を分散させれば、全体として荒らされた跡はほとんど残らないと考えがちだ。 しかるに妻に言わせれば（そしてミセス・ミフリンもロジャーにしばしばいっ て聞かせるのだが）、どれもこれもをすこしずつ食べるのではなく、一つの品 を全部平らげられた方がはるかに都合がいいのだ。というのは前者の場合はど の品も残り物として有用な量を切ってしまうことになりやすいからである。し かしロジャーはよき夫ならだれもが持つ頑固な意地の悪さがあり、しかも冷た くひえた食べ物のうまさを知っていた。プルーンの煮込み、サヤエンドウ、味 つけしてない冷たいゆでじゃがいも、チキンレッグ、アップルパイの残り半分、 ライスプディング一口分、そうしたものが何度も何度も真夜中の宴で消えて いったのである。彼はどの皿も平らげてしまわず、衰えることのない食欲で次 から次へとつまみ食いすることを信条としていた。戦争のあいだはきっぱりと この習慣を絶っていたが、ミセス・ミフリンは休戦成立以来、それが獰猛な食 欲とともに再開されたことを知っていた。この習慣のせいで家庭の主婦はつぎ の日の朝、無惨な食べ残しが集積する悲劇的光景を目撃することになる。小さ なお茶碗にビートが二切れ、一インチ幅の細長いアップルパイのかけら、わず かにシロップを帯びてつつましく身を寄せ合うプルーンが三粒、黄色いボール にいっぱい作ってあったのに、今や大さじ一杯分しか残っていないルバーブの 煮込み――どれほど有能な料理人でもこんな半端物でなにができるというのだ ろう？ こういうたちの悪い習慣はいくら激しく非難してもしすぎることはな い。 しかしわたしたちの性根は変わるものではないし、しかもロジャーは普通の 人以上に頑固だった。「憂鬱の解剖」を読むといつも彼は腹がへり、こっそり とご馳走の皿をいろいろ漁るのである。ボックもほんの一口、そのお裾分けに あずかるのだが、この秘密の夕餉にむける茶色い懇願の目は、それが恥ずべき、 こそ泥じみた性質のものだと彼が自覚していることを滑稽にもあらわしていた。 ボックはロジャーに冷蔵庫を荒らす権利がないことをちゃんと知っていた。犬 は、どんな家庭であっても従うべき社会的な決まり事を、大枠において明確に 理解している。しかしボックの顔はびくびくしながらも罪悪に身を投じたがっ ていることを示していた。ロジャーは黙って非難がましく横で見つめられるよ りはましだと、冷えたじゃがいもはほとんど彼に与えたものだ。犬に見とがめ られて耐えられる人間はいない。しかしバートンではないが、わたしの話も本 筋からそれてしまったようだ。

冷蔵庫のあとは、地下室である。自分の家を持つ者はだれでもそうだが、ロ ジャーも地下室に強い愛着を持っていた。ややかびくさいにおいはしたが、そ こには酒がたっぷり詰まった箱があった。そしてコンクリートの床の上で桜色 の輝きを放つかまどの口は、書店主にとって大きな喜びだった。火室の真っ赤 な石炭の上で、小さな青い炎が飛び跳ねる様子はじつに目に快かった――それ はスミレの花のように青い、かすかな、ふんわりとした小さな炎で、上昇する ガスにゆすられて伸びたり縮んだりするのだった。石炭をくべて火が隠れてし まう前に、彼はブッシュミルズ・ウイスキーの木箱を引っ張り出して、頭の上 の電灯を消し、そこに腰をおろして、火床のバラ色の輝きを見ながら最後の一 服を吸う。タバコの煙は熱い火によってかまどに吸いこまれ、黄金色の光のな かで灰色に乾いて見えた。ボックは彼について階段をおり、地下室をあちらこ ちら嗅ぎまわったり詮索して歩いた。ロジャーは不滅のたばこについてバート ンが語ったことばを思い出していた。

たばこ、神から授けられた、貴重な、このうえないたばこ、それはいかなる 不老長寿の薬、王水に溶けた金、賢者の石にも勝る至高の万能薬――無闇に吸 うのではなく、適度に服用し、薬として使用するなら効き目のめざましい薬草 である。しかし一般的には鋳掛け屋がエールを飲むように濫用されているため、 疫病、害悪と化し、財産や土地や健康をひどく損ない、地獄の悪魔のように呪 われ、精神と肉体を荒廃させ滅ぼすものとなっている――

ボックは後ろ足で立って地下室の正面の壁を見あげていた。そこには鉄格子 のはまった小窓が二つあり、店の正面入り口脇のくぼんだところに面していた。

彼は低いうなり声をあげ、落ち着かなげに見えた。 「どうした、ボック？」ロジャーはパイプを吸い終えておだやかな口調で いった。 ボックは短く、鋭く、一声吠えたが、そこには抗議するような奇妙な響きが あった。しかしロジャーの心はまだバートンとともにあった。 「ネズミかい？」彼はいった。「さもありなん！ ここはラティスボンだか らな、おまえさん、吠えちゃいかんよ。『フランスキャンプの出来事』（註 ロバート・ブラウニングの詩）にはこうある。『微笑みながら、ねずみは斃れ た』（註 ブラウニングの詩の最終行は「微笑みながら、少年は斃れた」）」 ボックは冗談に取り合わず、妙に興奮して上を見ながら地下室の正面のほう へ忍び足で進んだ。彼はまた低くうなった。 「シーッ」ロジャーがやさしくいった。「ねずみなんか気にするな、ボック。 ほら、石炭をくべてベッドに行くぞ。おやおや、一時じゃないか」

