# 雲形紋章

## 第一章

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英国陸地測量部制作の地図ではカラン・ウォーフ、地元の人には単にカランと呼ばれている場所は、今でこそ海岸線から二マイルほど内陸部にあるが、かつてはもっと海寄りで、無敵艦隊との戦いに六隻の船を送り、その一世紀後にはオランダの攻撃を迎え撃つため四隻の船を送り出した由緒ある港として歴史に輝かしい名を残している。ところがやがてカル川の河口域は沈泥でふさがって港口には砂州ができ、海上貿易の船は他に港を探さざるを得なくなった。その後、カル川の流れはやせ細り、それまでのようにあちらこちらへ縦横に伸びるかわりに身を縮めておとなしい河川に変貌し、しかも河川としても決して大きいほうの部類ではなかった。市民たちは港で生計が立てられないことを見て取ると、塩沢を埋め立てることでなにがしかの代償が得られるかも知れないと考え、海水を防ぐために石の堤防を築き、その真ん中にカル川の流れを海に放出する水路を造った。こうしてカラン・フラットと呼ばれる低地の牧草地ができあがり、自由市民はここで羊を放牧する権利を持ち、海峡のむこう、フランスのプレサレ羊にも負けない美味なマトンを生産するようになった。しかし海は無抵抗にその権利を明け渡したわけではない。南東風や大潮と共に波はときどき堤防を乗り越え、またときにはカル川がお行儀よく振る舞うことを忘れ、内陸部に大雨があったあとなど、昔日のごとく、あらゆる拘束を断ち切って暴れた。そんなとき、上の階の窓からカランの町を眺めた人々は、誰もがこの小さな場所が再び海岸線の方に移動したのではないかと考えた。牧草地は水浸しで、堤防は内陸の湖とそのむこうの海との境界線として、目につくほど幅が広くなかったのである。 グレート・サザン鉄道の幹線はこの見捨てられた港の北七マイルのところを走っていて、外部との交通は長年、運送屋の二輪馬車が町と鄙びたカラン街道駅とを往復することで保たれていた。しかしやがてこの古い自治都市から選出された議員、有能で広く信望を集めていたサー・ジョゼフ・カルーがカラン自治体代表団を正式に組織して、交通の便をいっそう改善する必要ありと鉄道会社を説得し、支線が敷設されることになった。ただしその利便性は過去の運送屋と比べてほとんどかわりばえのしないお粗末なものだった。

聖堂の修復工事がファークワー・アンド・ファークワー商会に委託された当時、鉄道の物珍しさはまだ消えておらず、汽車が到着するとカランの町をぶらつく人が毎日儀式のように集まってきた。しかしウエストレイがやってきた午後は雨が激しく降り、見物人は一人もなかった。彼はロンドンからカラン街道駅まで三等車券を買って旅費を節約し、乗換駅からカランまでは一等車券を買って会社の威厳を保とうとした。だがそんな用心は取り越し苦労に終わった。数名の年老いた駅員が養老院に送られるようにカラン駅に配属されているだけで、他に彼の到着を目撃するものはまったくなかったのである。

彼はブランダマー・アームズという家族むけ、および商人むけのホテルが、汽車の到着に合わせて乗合馬車を運行していることを知り喜んだ。聖堂のちょうど入り口前で降ろしてくれるというから、なおのこと好都合とこの乗り物を利用することにした。彼はささやかな荷物を中に運びこむと――乗客は彼一人だったから余裕はたっぷりあった――床を覆う藁に足を突っこみ、十分間というもの、砂利道を走る馬車でなければ味わえないがたがたという振動に耐えていた。 ウエストレイはカラン大聖堂の見取り図をすべて完全に頭に入れていたものの、実物はまだ見たことがなかった。乗合馬車がけたたましい音を立てて市場の中に駆けこみ、四角い広場の南側全面を覆いつくすように聳え立つ聖セパルカ大聖堂をはじめて見たとき、彼は感嘆の声を抑えることができなかった。篠つく雨が通りから歩行者を追い払い、降ろした緑のブラインド越しに乗合馬車の通過をのぞき見る幾人かのピーピング・トムをのぞけば、市場はまるでレディ・ゴダイヴァの行進を待っているかのように少しも人気がなかった。

沛然と降る雨、屋根の上に砕け散り霧のように広がるしぶき、地面から立ち昇る水蒸気、それらがあらゆるものに目に見えない、けれどもそれと分かるヴェールを被せ、舞台に用いられる紗幕のように輪郭をぼやけさせた。それを通して浮かび上がる大聖堂は、ウエストレイが想像の中で思い描いたどんな姿よりも遥かに神秘的で荘厳だった。馬車はすぐに鉄の門の前に停まった。そこから境内を抜けて北側ポーチまで板石敷きの小道がついていた。

御者がドアを開けた。 「ここが聖堂です」と彼は言わずもがなのことを言った。「ここで降りるんでしたら、荷物はホテルにお届けしておきます」 ウエストレイは帽子を深くかぶると、外套の襟を立て、入り口めがけて雨の中に飛び出した。小道に敷かれた墓石のくぼみに深い水たまりができていて、急いでいた彼はポーチに着くまでに服に水を撥ね散らかしてしまった。巨大な扉口にくぐり戸があり、彼はそこにかかる革の帳《とばり》を横に押しやって聖堂の中に入った。 まだ四時ではなかったが、空は雲に閉ざされ、建物の中はすでに薄暗くなっていた。聖歌隊席で話をしていたひとかたまりの男たちが入り口の音に振り返り、建築家にむかって進んできた。領袖格は中年を過ぎた聖職者で、ストックタイを首に巻き、若い建築家のほうに歩み寄ると挨拶をした。 「サー・ジョージ・ファークワーの助手の方ですな。いや、助手のお一人と言い直すべきでしょうね。サー・ジョージは多彩なお仕事をこなすのに、きっとあなた以外にも助手をお使いでしょうから」 ウエストレイは同意を示すように頷き、聖職者は話しつづけた。「自己紹介しますと、わたしは参事会員パーキンと申します。わたしのことはきっとサー・ジョージからお聞きでしょうが、この聖堂の主任司祭として格別のお付き合いをいただいております。あるときなどサー・ジョージはわたしの家にお泊まりになりましてな。若い方があのように有能な建築家のもとで修業できるというのはまことに誇りに思うべきことですよ。あとで今回の修復工事についてサー・ジョージがお考えになっていることを大まかに、ごく手短に説明しますが、その前に尊敬すべき教区民にしてわたしの――友人である方々を紹介しましょう」その口調には、どこから見ても格下なのに、そんな相手を友人扱いするのは、自分を貶めすぎではないかという疑問がいくらかこめられていた。 「こちらはミスタ・シャーノール。オルガン奏者で、わたしの指示のもと、礼拝の音楽を演奏しています。こちらはドクタ・エニファー。地元の優秀なお医者さんです。そしてこちらのミスタ・ジョウリフは商売をなさっているんですが、手の空いたときに教区委員として聖堂管理のお手伝いをしていただいています」 医者とオルガン奏者は紹介を受けて、頷くような、肩をすくめるような仕草をした。それは主任司祭のうぬぼれて尊大ぶった態度に対する侮蔑をあらわし、万が一にも彼らがミスタ・ウエストレイと友達になることがあったとしても、それは決して参事会員パーキンの紹介のおかげではないだろうということを暗に示していた。それとは逆にミスタ・ジョウリフは、自分が主任司祭の友人に数え入れられたことの重みを充分に認識したらしく、恭しく一揖しながら丁寧に「何かあればわたしにおっしゃってください」と言い、謙虚に振る舞うすべをわきまえていて、これから世に出ようとしている若い建築家にいつでも惜しみなく保護の手を差し伸べる用意のあることを明らかにした。 こうした主役たちの他にもその場には教会事務員と、通りから聖堂にぶらりと入ってきた数名の通行人役がいた。彼らは雨はしのげるし、午後のひとときを無料で楽しく過ごせそうだとご機嫌だった。 「こちらでお会いすることをお望みじゃないかと思ったのですよ」と主任司祭が言った。「さっそくこの建物のひときわ目につく特徴をご指摘して差し上げることができますからな。サー・ジョージ・ファークワーは、この前お出でになった折、わたしの説明を明快だと言ってにこにこしながら褒めてくださいましたよ」 すぐに逃れる道はなさそうだったので、ウエストレイは観念し、少人数の一団は濡れた外套や傘の匂いとあいまって独特の雰囲気を醸し出している身廊を歩き出した。教会の空気はひんやりと冷たく、濡れそぼった敷物の匂いがウエストレイの注意を屋根の雨漏りと床のあちこちにできた水たまりにむけさせた。 「身廊がいちばん古いのです」とこの雄弁な案内人は言った。「ウォルター・ル・ベックによって千百三十五年に建てられました」 「われわれのお友達はこの仕事を任せるには若すぎて経験不足じゃないかと、どうも不安でならないのだがね。あなたはどう思う」彼は脇をむいてすばやく医者に尋ねた。 「ああ、あなたが手取り足取り多少指導なされば大丈夫だと思いますよ」医者はそう答えながら眉毛をつり上げて見せてオルガン奏者をにやりとさせた。 「さよう、ここはすべてル・ベックが建てたのです」主任司祭はウエストレイのほうにむき直りながらつづけた。「崇高だと思いませんか、ノルマン様式の簡素さは。身廊のアーケードは吟味するに値しますぞ。それに交差部のこの素晴らしいアーチを見てください。もちろんノルマン様式ですが、なんと軽々としていることか。それでいて岩のように頑丈で、後代に架構された塔の莫大な重量をしっかり支えている。素晴らしい。実に見事だ」 ウエストレイは上司が塔に不安を抱いていたことを思い出してランタンを見上げた。すると北側には以前、亀裂に煉瓦を詰めこんだ跡が筋のようについており、南側にはランタンの窓枠の下から細いぎざぎざの割れ目が稲妻を刻印したかのように走っているのが見えた。彼は「アーチは決して眠らない」という古い建築の諺を思い出した。四つの大きな美しい半円形を見上げていると、それらがこう言っているように思われた。 「アーチは決して眠らない。決して。彼らはわれわれの上に背負いきれないほどの重荷を載せた。われわれはその重量を分散する。アーチは決して眠らない」 「素晴らしい。実に見事だ！」主任司祭はつぶやきつづけた。「大胆なことをやる連中ですな、ノルマンの建築者たちは」 「ええ、そうですね」とウエストレイは応ぜざるを得なかった。「しかしこの塔がアーチの上に積み上げられるとは思っていなかったでしょう」 「なに、アーチが不安定だってことかね」オルガン奏者が口をはさんだ。「実はわたしもそんな気がしていたんだよ、何度も」 「さあ、それはどうでしょうか。われわれが生きているあいだは持ちこたえると思いますよ」ウエストレイはさりげなく、安心させるように言った。塔に関してはいらぬ波風を立てるなと特に注意されていたことを思い出したのだ。しかし頭の上を見ると、天に登ろうとしたギリシア神話の巨人たちではないけれど、ペーリオン山にオッサ山を積み重ねたような気がしてならず、交差部の巨大なアーチに対する不信感は拭いようもなかった。 「そんなことはありませんよ、あなた」主任司祭はこのとんでもない誤解に寛大な笑みを浮かべて言った。「このアーチなら心配には及びません。ここではじめてお会いしたときにサー・ジョージがこうおっしゃったんですよ。『主任司祭さん、カランには四十年お住まいとのことですが、塔が動いたような形跡はありませんでしたか』わたしはこう言い返したんです。『サー・ジョージ、費用の支払いを塔が倒れるまで待っていただけますかな？』はっ、はっ、はっ！冗談がお分かりになったようで、それ以後塔の話は出たことがありません。サー・ジョージはきっとあなたに周到な指示をお与えになったのでしょうな。さて、サー・ジョージに聖堂の中を直々に案内して差し上げた栄誉に免じて、どうか南袖廊のほうへお進みいただけませんか。サー・ジョージがどこよりも緊急に修復すべきとお考えになったところをご覧にいれましょう」 彼らは袖廊に移動した。その途中で医者がウエストレイを引き留め話しかけてきた。 「死ぬほどうんざりすると思うよ、あいつの無知とうぬぼれには。あいつの話など聞き流しておけばいい。ただきみには機会がありしだいさっそく頼んでおきたいと思っていたことがあるんだ。修復工事がどう行われるのか、費用がどれだけ限られているのか知らないが、ともかく床だけは衛生的にしてくれないか。この石をほじくり返して、その下に一フィートか二フィート、セメントを流しこんでくれ。死者が生者に毒を吹きかけるのを放っておくことくらいひどい話もないだろう？この床のすぐ下には何百という墓があるに違いない。それにまわりの水たまりを見てくれ。非衛生きわまりないじゃないか」 彼らは南袖廊にいて、主任司祭がちょうど屋根の破損を指さしたところだった。それは実際、示されるまでもない有様だった。 「ここはブランダマー側廊とも呼ばれています。長年ここに埋葬されてきた貴族の一族の名を取りましてね」 「彼らの地下納骨所はきっと恐ろしく非衛生的な状態ですよ」医者が口をはさんだ。 「ブランダマー家は聖堂全体の修復を引き受けるべきだよ」オルガン奏者が苦々しく言った。「まともな心ある人間ならそうするだろう。彼らはクロイソス王のように金持ちで、一ポンドをなくしても、普通の人が一ペニーをなくしたときより惜しいとは思わない連中だ。衛生うんぬんという話なんかどうでもいいさ。今のままだって充分用は足りる。床を掘り返したって、黴菌が出てくるだけだ。建物には手をつけなくてもいい。屋根の雨漏りを直して、オルガンに百ポンドが二百ポンド、金をつぎこんで欲しい。それがわれわれの望んでいることだ。ブランダマー家がけちのしわんぼうでなければ、それくらいやってくれてもよさそうなものだが」 「失礼だがね、ミスタ・シャーノール」と主任司祭が言った。「世襲貴族というのは大切な制度だから、そういう方々の批判はごく慎重にしなければならないと思うね。でも同時に」彼は弁明するようにウエストレイのほうを振りむいて言った。「友人の意見には一抹の真実があるかも知れません。ブランダマー卿が気前よく修復費用を出してくれはしないかと期待していたのですが、今までのところ音沙汰なしです。もっともお返事が遅れているのはずっと外国にいらっしゃるせいだと思いますがね。卿は昨年おじい様から地位をお継ぎになりました。お亡くなりになった先代はこの聖堂にあまり関心をお持ちではありませんでしたし、実はいろいろな面でひどく変わった性格の持ち主でした。しかしこんなことを蒸し返しても仕方がありませんな。ご老体はお亡くなりになったのですから、お若い御当主からよい知らせがあることを祈るしかありません」 「若くはないですよ」と医者が言った。「まあ、八十五で死んだおじいさんに比べれば若いでしょうが、少なくとも四十にはなっているはずですから」 「まさか。いや、そうなのかな。彼のご両親が亡くなったのはわたしがカランに赴任した最初の年のことでした。覚えているかね、ミスタ・シャーノール――コリサンド号がパリオン湾で転覆したときのことを」 「ああ、よく覚えてますわい」と教会事務員が割りこんできた。「結婚なすったときのことも。わしらが鐘を鳴らしておったら石工の爺さんのパーミターが聖堂に飛びこんできて『おまえら、やめんか。鐘を打つな。この古い塔が倒れるぞ。ぐらぐら揺れて、ひび割れたところから埃が雨のように降っている』と言うんでさ。それで聖堂を出ました。中止になったのは好都合でしたがね。なんたってロンドン・ロードの牧草地では飲めや歌えやの祝宴が開かれとって、わしらも行きたくてしょうがなかったですから。今度お告げの日（註 処女マリアの受胎告知を祝う三月二十五日）が来りゃ、あれから四十二年経つことになります。感心しねえって頭を振るやつもいましたよ。ピールを中断するのは命や幸せの中断につながるってね。でも、しょうがねえじゃねえですか」 「その後、塔の補強をしたのですか」とウエストレイが訊いた。「今もピールを鳴らすと異常な動きがありますか」 「とんでもねえ、旦那。あの前も三十年間鳴らされねえままだったんで。あのときだって鳴らすつもりはなかったんだが、トム・リーチが『鐘紐があるじゃねえか。いっちょう鳴らしてやろうぜ。三十年鳴っていねえんだ。最後に鳴ったのがいつかも思い出せねえ。そのとき弱っていたとしても、たっぷり時間があったからもう回復しているさ。ピールを鳴らしたやつには半クラウン出すぜ』って言うものでね。それでパーミターの爺さんに止められるまで鳴らしたってわけで。それからというものあの鐘は一度も鳴らされちゃおりません。間違いないですよ。あそこに紐がありますがね」そう言って彼ははるか頭上のランタンから垂れ下がり、壁にくくりつけられている鐘紐を指さした。「ありゃあ、礼拝用の鐘を鳴らすためのものですが、それだって大きい鐘じゃねえですからな」 「サー・ジョージはそういうことをみんな知っていたんですか」ウエストレイは主任司祭に訊いた。 「いいえ、ご存じじゃなかったでしょう」主任司祭は幾分いらいらした口調で言った。「お話しなければならないほど重要なことではありませんし、こちらにいるあいだはもっと緊急な問題に時間を取られていらっしゃいましたから。今の昔話など、わたし自身もはじめて聞きましたよ。鐘を鳴らしていないのは事実ですが、それは揺れを支える鐘枠が弱っているようだからで、塔自体とは何の関係もありません。わたしの言うことのほうが間違いありませんよ。サー・ジョージがお尋ねになったとき、申しあげたのです。『サー・ジョージ、わたしはここに四十年住んでいますが、この塔が倒れるまでお支払いを延ばしてくださるなら、こんなに嬉しいことはありません』とね。はっ、はっ、はっ！サー・ジョージもこの冗談を聞いて大笑いでしたよ！はっ、はっ、はっ！」 ウエストレイはピールが中断された話を本社に伝え、自分自身のためにも早期に塔の検査をしようと固く決意して顔を背けた。

教会事務員は話をしても主任司祭がまともに取り合おうとしないので腹を立てたが、他の人が興味深そうに耳を傾けているのを見て次のようにつづけた。 「そりゃ、この古い塔が倒れるかどうかなんて、わたしにゃ分かりませんし、この先サー・ジョージがお困りになるような事態も望んじゃいませんや。しかし鐘を途中で止めていいことのあったためしがねえんで。先代のブランダマー卿の場合がそうでした。まずご子息とご子息の奥様をカラン湾でお亡くしになりました。昨日のことのように思い出しますな、わしらは夜通し引っ掛け鉤でお二人を捜したんですが、朝になって潮が差してきたとき、三尋の深さのところに寄り添うように二人の死体を見つけました。それから今度は奥様と仲違いなさり、奥様は二度と口をきこうとしませんでした――ええ、死ぬ日までね。ご夫婦はフォーディングに住んどったんですよ――あそこにでっかい屋敷を構えとりましてね」彼は親指で東のほうをさしながらウエストレイに言った。「二十年間、別々の棟に、まるで自分の家みてえにして住んどったんで。それから孫のミスタ・ファインズと喧嘩なさって、家からも土地からも追い出しておしまいになった。もっともお亡くなりになったときゃ、家も土地もお孫さんに残すしかなかったんですがね。このミスタ・ファインズというのがお若い御当主なんでして。外国を渡り歩いて人生の半分を過ごし、まだお戻りじゃないんですよ。もしかしたら戻らないかも知れませんな。殺されたってことも充分ありえます。さもなきゃ、きっと司祭さんの手紙に返事を書いているでしょうから。そう思いませんか、ミスタ・シャーノール」彼は不意にオルガン奏者のほうを振りむき、片目をつぶって見せた。主任司祭が彼の話を鼻であしらったことへの仕返しのつもりだった。 「もうよさないか。そんな話はたくさんだ」と主任司祭が言った。「聞き手が嫌がっているじゃないか」 「彼は口まめな男でしてね」彼はウエストレイの腕を取ると低い声で言った。「しゃべり出すと止まらないのです。サー・ジョージと相談したことは他にもたくさんありまして、われわれがどういう結論に達したのかお話したいのですが、あのおしゃべり男に邪魔されたのが悔やまれますな。視察は明日済ませることにしましょう。今の時期は日暮れが早くて残念です。袖廊の端の窓にはなかなかいい絵ガラスがはめられているんですよ」 ウエストレイが上を見ると、袖廊の端の大きな窓が鈍く光っていた。光っているといっても聖堂の内部に垂れこめる夕闇に比べれば明るいといった程度である。それは垂直様式の時代に造られた大きなもので、幅は壁一杯に広がり、高さもほぼ床から天井まであった。十一の小さな窓に仕切られ、上部に果てしなく細かい石細工を施したこの巨大な窓は、想像力を揺さぶった。縦仕切りと狭間飾りが外に残っている陽の光を受けて黒く浮かび上がり、建築家は補助アーチや狭間飾りの構造を、見取り図を前にしているかのように、楽々と見て取ることができた。日没は日暮れ時の陰鬱な帳を吹き払う夕陽のきらめきをもたらしはしなかったが、単調な灰色の空はまだ充分に明るく、熟練した目には窓の上部にいろいろな形の古いガラスがびっしり填めこまれているのが見えた。半透明の青や黄や赤が古いパッチワークのキルトのように、彩りよく混じり合っているのだ。窓の下の方、両脇の小窓は着色されておらず、幽霊のように白いままだった。しかし中間部の三つの小窓は十七世紀の鮮やかな茶色と紫色に満たされていた。この豊かな色のあちらこちらにメダイヨンが挿入されていて、どうやらそれぞれ聖書の一場面をあらわしているようだった。それぞれの小窓の上部、茨の下には紋章が描かれている。中間部分の上部が全体の構成の中心をなしていて、どうやら銀色の楯の表面を、海緑色の波形線が何本か横切っている図像が描かれているようだった。ウエストレイは変わった色使いとガラスの透明感に注意を奪われた。すべてものが薄ぼんやりと見える中で、そのガラスだけはまるで内側から光を放射しているようだった。彼はほとんど無意識のうちに、これは誰の紋章なのかと尋ねようとして振り返った。しかし主任司祭はちょっと前から彼のそばを離れ、ややへだたった身廊のほうから癇に障る「はっ、はっ、はっ！」が聞こえてきたので、彼はサー・ジョージ・ファークワーと支払い延期の話がまたもや夕闇の中で新たな犠牲者に語られたのだと確信した。 しかし建築家の心の内を明らかに見抜いた者がいた。というのは鋭い声がこう言ったからである。 「それはブランダマー家の紋章だよ。――｜雲形線が楯を六つに等分割し《バーリイ・ネビュリー・オブ・シックス》、銀色《アージェント》と緑色《ヴァート》が交互に重なっている」ますます濃くなる夕闇の中、彼のそばに立っていたのはオルガン奏者だった。「こりゃうっかりした。そんな専門用語を使ったってお分かりにならないだろうね。それにわたし自身、紋章なんてこの一つしか知らないんだ。ときどき思うんだよ」彼はため息をついた。「この紋章のことも知らなければよかったってね。あの楯についてはおかしな逸話が幾つかある。たぶんそれ以上に奇妙な話もまだあるんじゃないだろうか。いいにつけ、悪いにつけ、あれはこの聖堂や、この町に何世紀にもわたって刻みこまれてきた。居酒屋にたむろする連中ならみんな『雲形紋章』のことを自分が着ている服みたいにしゃべってくれるよ。カランに一週間もいたら、あんたもあれとはお馴染みになるだろう」 彼の声には、その場にふさわしくないある種の憂愁と真剣さがこもっていた。ウエストレイは奇妙な感じがしてオルガン奏者をじっと見つめた。しかし暗すぎて相手の顔の表情は読み取れなかった。しかもその瞬間、主任司祭が彼らに加わった。 「え、何ですか？ああ、そうです、雲形紋章です。雲形《ネビュリー》というのはラテン語の『ネビュルム』、いや、『ネビュルス』かな、雲を意味する単語から来ていて、あの波打つような帯状の線を指しています。積雲をかたどったものと考えられているんですがね。どうも暗くなりすぎて今晩はこれ以上視察できませんな。しかし明日は一日中ご一緒できますよ。あなたの興味をひきそうなことをたくさんご説明申し上げることができます」 ウエストレイは暗闇のせいで調査が中断したことを残念に思ってはいなかった。聖堂の空気は刻一刻と冷たくねっとりしてくるし、疲れて腹が減り、しかもひどく寒気がした。彼はできることならさっそく下宿を探し、ホテルの高い宿泊費を払うことは避けたいと思っていた。彼の給料はささやかなものでしかなかったし、ファークワー・アンド・ファークワー社は他の会社と比べて決して部下に気前よく旅費を出すほうではなかったのである。

彼は適当な下宿部屋はないだろうかと尋ねた。 「申し訳ない」と主任司祭が言った。「残念ながらわたしの家にお迎えすることができないのですよ。あいにく妻の気分がすぐれないものですからね。わたしはもちろん下宿屋とか下宿屋の経営者なんぞはあまり知らないんですが、しかし、ミスタ・シャーノールが相談にのってくれるでしょう。ミスタ・シャーノールが下宿しているところに空き部屋があるかも知れませんよ。あなたの下宿屋の女主人は尊敬すべきわたしたちの友人ジョウリフさんの親戚だったね、ミスタ・シャーノール。きっと彼女も立派な女性に違いない」 「失礼ですが、主任司祭」教区委員がはるか高位者にむかって用いることができる、ありったけの憤慨をこめた声で言った。「失礼ですが、親戚なんかじゃありませんよ。名前が同じというだけ、あるいはせいぜいのところ、うんと遠いつながりというだけなんですから。これでもキリスト教的寛容の精神を最大限に発揮して我慢して言っているんですがね、わたしたちの側の親族としてはあんな人がいたって、ちっともうれしくないんで」 オルガン奏者は主任司祭がウエストレイを同じ下宿に住まわせてはどうかと言ったとき顔をしかめたが、ジョウリフに下宿の女主人をけなされ頭に来た様子だった。 「あんたの側のどの親族も、わたしの下宿の女主人ほど体裁が悪くはないというなら、大手を振って往来を歩くがいいさ。あんたの売っている豚肉がみんな彼女の貸間くらい上等なら、商売は大繁盛するだろう。さあ、来たまえ」彼はウエストレイの腕を取って言った。「わたしには急に病気になるような連れ合いはない。だからわたしのうちであなたを歓迎してさし上げよう。途中でミスタ・ジョウリフの店に立ち寄って、夕ご飯用にソーセージを一ポンド買っていこうか」

