# 入れかわった男

## 第五章

Book page: https://www.cyberlibrary.org/ja/books/34158/index.md

ウースター・ハウスは一見したところなんの理由もなくリージェンツ・パークのど真ん中に建てられた、半ば宮殿のような邸宅の一つである。以前、とある公爵が親しい友人の摂政王太子にそそのかされて入手し、その後代々引き継がれ、百万長者街道パークレーンに軒をつらねる無様な邸宅に対して、無言の非難を浴びせつづけた。ドミニーはまず門衛詰め所で革のチョッキとシルクハットの人物にじろじろ見られたあと、立派な石作りの広間で執事に用向きを尋ねられ、革のチョッキを着た別の召使いに案内されて、おそろしくヴィクトリア朝風の居間を通り抜けた。大部屋を出てから、ようやくこぢんまりした婦人の私室に導かれたのだが、その先は温室になっていて、甘い香りを放つ異国の花に埋め尽くされていた。安楽椅子に寄りかかっていた公爵夫人は手を差し伸べ、訪問者はそれを取って唇にあてがった。彼女は横の椅子に座るよう手で示し、もう一度臆面もなく探るように彼を見つめた。 「あなた、何か変だわ」 「それは実に不幸なことだと思いますね。帰ってきたらあなたはまったくお変わりないというのに」 「お上手ね」彼女はうさんくさそうに言った。「でもわたしは変わったわ。もうちっともあなたを愛していないのですから」 「その心変わりが怖くて、世界の果てからあんなに長いこと帰れなかったんですよ」彼はため息をついた。

彼女は厳しい目で彼を見たが、いかにもわざとらしい表情だった。 「いいこと、一つだけお互いはっきり理解しておいたほうがいいと思うの。あなたのことは何でも知っている。弁護士が送っていた毎年二百ポンドのお金が古木を売ったり、彼のポケットから払われていたことも。こちらでどうやって生計を立てるのか、想像もできないけど、ヘンリーが助けてくれるなんて思わないほうがいいわよ。可哀想にあの人ったら講演旅行の旅費すらろくにまかなえないんだから」 「講演？ヘンリーに何があったんです？」 「夫はとっても良心的な人なのよ」彼女はもったいぶって答えた。「ロバーツ卿と秘書を従えて町から町へと、国防問題の講演をしているのよ」 「ヘンリーは変人だったからなあ。でも、さっきのお話ですが、ご心配には及びませんよ、キャロライン。イギリスに戻ってきたのはお金を借りるためではなくて、お金を使うためなんです」 従姉妹は悲しげに頭を振った。「さっき言おうと思ったんだけど、あなた、ユーモアのセンスもなくしてしまったのね」 「これは本当ですよ。アフリカはわたしの黄金郷だったんです。向こうでの滞在が終わる頃、思いもよらず大金を手に入れましてね。ドミニー邸を抵当に入れて借りていた金は全額すぐに返済します。ヘンリーから、以前、いくばくかのお金を貸して頂きましたが、その額をさっそく請求書に書きつけてほしいんですよ」 ウースター公爵夫人キャロラインはしばらく口を開けたまま身動きもせず椅子に座っていた。当然の反応とはいえ、彼女のような女性にはふさわしくない姿だった。 「あなた、ほんとうにエヴェラード・ドミニーなの？」 「証拠を見るとどうやらそのようですよ」 彼はわざと椅子を近くに引き寄せ、彼女の手を取り唇に持って行った。相手の顔が危険なほど近くにあった。彼女は少し身体を引いた――それも突然に。

彼女は声をひそめた。「エヴェラード、ヘンリーが家にいるのよ。それに――そうね、あなたはエヴェラードに違いないと思うわ。いま、あの人そっくりの目をしたもの。でもずいぶん堅苦しいのね。向こうで軍事教練でもしていたの？」 彼は頭を横に振った。 「一日の半分は馬の上で生活してましたから」 「お金持ちになったというのは本当？」彼女はもう一度不思議そうに訊いた。 「もう一年向こうにいて、オランダのユダヤ娘と結婚していたら、パークレインに住む資格だってあったでしょう」 彼女はため息をついた。 「信じられないくらい素晴らしいわ。ヘンリーはお金が戻ってきて喜ぶでしょう」 「で、あなたは？」 彼女は見るからに戸惑っていた。 「あなた、作法を忘れてしまったのね。それじゃあ熊手で愛情をかき集めるみたいじゃない。いまの台詞は、わたしの方に寄りかかって震えるような声で言わなきゃならないのよ。それなのに、あなたときたら目を鋼みたいにぎらっとさせて、まるで気をつけしているみたいにまっすぐ座っているんですもの」 「向こうでは滅多に女性にお目にかかれなかったんです」彼は言い訳をした。

彼女は頭を振った。「あなたは変わったわ。女をくどくときは、第六感がはたらいて、その場にふさわしい調子を使うことができたのに。その場にふさわしい態度とふさわしい言葉をね」 「少し手を貸していただければ、勘を取り戻しますよ」彼は明るく言った。

彼女は軽く顔をしかめた。 「わたしみたいなおばあさんに助けてもらいたくはないでしょうに、エヴェラード。あなたは街で好きなことができるでしょうから。ミュージカルの踊り子といちゃつくこともできるし、美しい人妻と浮気をしたり――ごめんなさい、エヴェラード、忘れていたわ」 「何を忘れていたんです？」彼は落ち着き払って訊いた。 「あなたをとうとう外国に追いやったあの事件のこと。あなたの結婚のこと。奥さんはよくなられたの？」 「あまり変わりはないと思いますね、残念ながら」 「ミスタ・マンガンは――こっちにいても安全だと思っているのかしら？」 「なんの問題もないと」 彼女は真剣な面持ちで彼を見つめた。恐らく彼女は自分がこの厄介者の従兄弟をどれほど好いていたか、今ほど自覚したことはなかっただろう。 「誰もあなたに文句を言う人なんていないわ。富を手にして生まれ変わったんだもの。あなたの望み通り何でも水に流してくれるでしょう。いつうちの晩餐に来て、親戚一同に挨拶するつもり？」 「お招きいただければいつでも構いません。あしたはドミニー邸に行こうと思っていましたが」 彼女は目に新しい表情を浮かべて彼を見た――恐れと同時に賛嘆の念をあらわす表情だった。 「でも――奥さんは？」 「向こうにいるでしょうね。仕方がありません。もう逃亡生活から家に戻らなければ」 「行かないで」彼女は突然、懇願した。「どうして思い切って彼女をよそにやってしまわないの。心の優しいことは知っているけど、自分の未来や仕事のことも考えないと。彼女のためにも、妙なまねをさせないほうが――」 ちょうどそのとき、会話が遮られたことは歓迎すべきことだったのか、そうでなかったのか、ドミニーには判断がつかなかった。キャロラインは急に口を閉ざし、警戒するように大部屋のほうを振り向いた。長身、白髪の男が、流行遅れの服に鼻眼鏡をかけて、カーテンを持ちあげた。彼は公爵夫人に細い、甲高い声で話しかけた。 「やあ、キャロライン、邪魔してごめんよ。話し中とは知らなかったんだ。長居はしない。ただ今晩の会合で手助けをしてくれるわたしの若い友人を紹介しておきたくてね」 「連れていらっしゃいな」と妻は答えた。その声はいつものゆっくりした話し方に戻っていた。「わたしもびっくりさせることがあるのよ、ヘンリー。腰を抜かすと思うわ！」 ドミニーは立ちあがって、背の高い威厳のある姿を見せ、男が近づくのを待った。公爵はいぶかるように彼を見ながら進み出た。私服を着ているが、いかにも軍人といった若い男が後ろからついてきた。 「ご期待通り驚くことができなくて申し訳ないが」と公爵は丁重な言葉遣いで白状した。「お顔にはひどく見覚えがあるものの、お会いした時のことを思い出せないのですよ」 「ほらね、一目で分からなかったのはわたしだけじゃないでしょう、エヴェラード。こちらはエヴェラード・ドミニーよ、ヘンリー。外国で逃亡生活していたのを止めて戻ってきたの。あらゆる意味で生まれ変わってね」 「いかがお過ごしです？」ドミニーは手を差し伸べながら言った。「誰に会ってもびっくりされるようですね。あなたにまで忘れられていなければいいのですが」 「なんと！まさか本当にエヴェラード・ドミニーなのかね？」 「間違いなく本人です」彼は静かにきっぱりと言った。 「こいつはたまげた！」公爵は握手しながら言った。「わが目を疑うよ！これほど人が変わった例は見たことがない。しかし確かに――なるほど顔の色つやも――鼻も目も――こりゃ間違いない！しかし背が高くなったようだね。それに振る舞いが軍人みたいだ。なんとまあ！アフリカが君を驚くほど変えてしまったんだね。嬉しいよ、エヴェラード！感激だ！」 「他のニュースを聞いたらもっと喜ぶわよ」妻がにこりともしないで言った。「ところでお友達を紹介してちょうだい」 「そうだった」公爵は促されて、後ろの若者のほうを振り向いた。「失礼しました、バートラム大尉。妻の親類が思いもかけず戻ってきたもので、つい不作法をはたらいてしまいました。公爵夫人にご紹介いたしましょう。バートラム大尉はドイツから帰国したばかりなんだよ、おまえ。わたしの主張を熱心に支持してくださっている。こちらはエヴェラード・ドミニー」 キャロラインは夫の弟子と快く握手し、ドミニーは重々しく握手を交わした。 「バートラム大尉、あなたもドイツがわが国によからぬことを企んでいると、確信している人々の一人なのですか？」夫人は笑みを浮かべながら言った。 「わたしは一年の滞在を終えてドイツから戻ったばかりです」と若い軍人は答えた。「偏見を持たずあちらに渡ったのですが、帰ってきた今はわれわれが二年以内にドイツと戦争になることを固く信じています」 公爵は力強く頷いた。 「その通りだ。わたしは何ヶ月にもわたって毎週三回、集会に来てくれた一握りの頭の鈍いイギリス人にその事実をたたきこんでいるのだよ。上院と報道機関からは敬遠されているがね。全くあきれたことに、イギリス人は金を儲けて、楽しく過ごすことさえできれば、どんなに口を酸っぱくしていさめても、反省ということをしない。ところであなたはアフリカから戻ってきたばかりなんだろう、エヴェラード？」 「戻って一週間も経っていません」 「向こうでドイツ人を見たかね？ドイツ領の近くに行ったことは？」 「数年間、彼らと接触がありました」 「それは興味深い！もしかしたらあなたの話がわたしたちの役に立つかもしれないよ、エヴェラード。いや、きっと役に立つだろう！教えてくれないか。向こうにはドイツのスパイがいてボーア人を動揺させ不穏の種をまき散らそうとしているんじゃないかね？近い将来、わが国と戦争になることを予想し、植民地で反英運動を煽っているのじゃないかね？」 「はなはだ残念ですが、わたしはおよそ政治にうとい人間でして。向こうで出会ったドイツ人は誰も彼もとても平和的な印象でした。それにボーア人にしろ他の連中にしろ不平なんか少しも抱いていないようです」 公爵の顔が落胆を示した。「それは実に驚いた話だな」 「不満を抱いていそうなのはイギリス人入植者くらいです。わたしがまともに働きはじめたのは数年前からなんですが、戦争後のイギリス人の待遇について妙な噂を聞いたことがあります」 「サー・エヴェラード、あなたの南アフリカのお話が興味深いのはもちろんなんですが」と若い軍人が言った。「しかしわたしが聞いた話とはおよそ矛盾していると言わざるを得ません」 「わたしも同意見だ」公爵が勢い込んで賛成した。 「向こうには今まで十一年間住んでいました。最初は猛獣狩りをして過ごしましたが、最近は蓄財に全精力を傾けていたのです。たぶん、そのせいで、充分に観察眼を働かしていなかったのかも知れません。さっそくあなたがたの会合に参加させていただき、この問題に関する理解を深めたいと思っているんです、公爵」 堂々たる風采の血縁者はしばらく眼鏡の奥から不思議そうに彼を見ていた。 「エヴェラード、こんなことを言うのを許してくれよ。しかしこれほど君が変わるとはおよそ信じがたい」 「エヴェラードの変貌はそれだけじゃないのよ」彼の妻がかすかな皮肉をこめていった。

退出しようと立ちあがっていたドミニーは、彼女の手の上に身をかがめた。 「わたしの晩餐会はどうするの？」と彼女は言った。 「ノーフォークから帰ったらすぐに」 「本当にドミニー邸に行くのね」彼女はいぶかるように尋ねた。 「もちろんですとも！」 彼女の目は再び恐れにおののき、そのあと束の間、感嘆の光を宿した。ドミニーは主人と重々しく握手をし、バートラムに頷いてみせた。公爵夫人が呼んだ召使いがカーテンを一方に寄せて押さえながら立っていた。 「またすぐお会いしたいと思います、公爵」いとまごいの最後にドミニーが言った。「あなたとちょっとした取引をしたいのですよ。一両日中にミスタ・マンガンから連絡があるでしょう」 公爵はこの驚嘆すべき訪問者の後ろ姿を見つめた。カーテンがさがると彼は妻のほうを向いた。 「ちょっとした取引だと？エヴェラードに説明したんだろうね。戻ってきたのはもちろん嬉しいが、今、わたしに経済的援助を求めても全く無駄だということを」 キャロラインは笑った。 「エヴェラードは今まで借りていたお金のことを言っていたの。すぐ返済するつもりらしいわ。ドミニー邸を担保に借りていたお金も返す予定よ。どうやらアフリカで一財産こしらえたみたい」 公爵は安楽椅子のなかに倒れこんだ。 「エヴェラードが借金を返済する？」彼は肝を潰して言った。「エヴェラード・ドミニーが抵当で借りた金を返すだと？」 「そういうことらしいわ」 公爵は気の弱い、しかし片意地な男の最後の避難所にしがみついた。彼の口はねずみ取りのようにがっちりと閉じた。 「どうも腑に落ちないな」と彼は言った。

