# 入れかわった男

## 第二十二章

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ドミニー邸のその日の晩は、外から新たな客の一団を迎えたという点を除けば、実質的には最初の晩のくり返しに過ぎなかった。晩餐のあと、ドミニーはしばらく席を外し、ロザモンドの腕を取って戻ってきた。彼女はお祝いの言葉をかける近隣の人々に愛らしく応対していた。すぐに彼女の周りに小さな宮廷ができた。晩餐の席に連なったドクター・ハリソンは、その輪の外で彼女の軽やかな、そして時には燦めきさえ見せるおしゃべりに注意深く聞き入っていた。ドミニーは彼女が楽しそうにしているのを見て満足し、ターニロフが身振りで合図するのに応じて、彼と一緒に広間の奥のほうへ歩いていった。 「さて、ご主人」と王子は熱をこめていった。「今朝話したことは前口上に過ぎないといったが、それを結論まで持って行くことにしよう」 「是非お願いします」と主人役は小声で言った。 「わたしが君に理解してもらおうとしてきたことは、わたしの見るところ――ついでに言うと、わたしのような立場に立つといろいろなものが見えてくるものだ――この国とわが国が戦争する恐れはもうないということだ。イギリスは平和を確保するためなら、無理のない範囲でどんな犠牲をも厭わない覚悟だ。イギリスは平和を欲し、平和をめざす。だから平和が訪れる。だから君がこの偽者の役割をすぐに止めた方がずっと良い結果をもたらすのだ」 「わたしは自分の判断で行動できないのです。大使自身もご存じのように、わたしは命令を受けてここにいるだけです」 「一緒に抗議しよう。わたしはロンドンに帰りしだい、報告書を書く。思うに事態は急を要している。君とのおつき合いは本当に楽しいのだが、この国で君が偽者を演じていることが分かれば、君との交友がわたしの地位を甚だしく脅かすことになる」 ドミニーは立ちあがって、勢いよく薪が燃える暖炉の前の敷物の上に立った。大使は心地よい安楽椅子に座って足を組み、とりわけ彼が好む長くて細い葉巻をふかしていた。 「大使、あなたがおっしゃったことのなかに、たった一つ間違いがあります」 「間違い？」 「イギリスは平和を欲する、ゆえに平和が訪れる、と大使は無条件に結論なさいました。わたしはシーマンと同意見です。きっとドイツの軍部が最終的に力を握るでしょう。たとえ今、皇帝が軍部と秘密裡に結託してないとしても、軍部は次第に彼らの意志を皇帝に及ぼすはずです。だからわたしは戦争が起こると思います」 大使は静かに言った。「わたしがそんな考え方に共鳴したら、この国でのわたしの立場は恥ずべきものとならざるを得ないだろう。わたしが受けた命令は平和のために働くことだ。わたしの責務は皇帝からじきじきに受け承ったものだ」 ステファニーがやや会話に飽きた様子で、遠くの集団を離れて彼らのほうに向かってきた。美しい目は疲れているようで、動きもけだるそうだった。話し声にもいつもの自信に満ちた響きがなかった。 「大切なお話の邪魔をしたかしら。それなら向こうに行くわ」 「大使とわたしの議論が完全に行き詰まってしまいました。友好的ではあるけれど、根本的な意見の食い違いが壁のように立ちはだかっているんです」 「じゃあ、しばらくつき合ってちょうだい」ステファニーはドミニーの腕を取った。「ドミニー夫人が殿方を独り占めにするから、わたし、寂しいの」 王子は一礼した。 「議論は譲れませんが、ご主人はあなたにお譲りしましょう。わたしはビリヤードの相手を探します」 彼が立ち去ると、ステファニーがその空いたところに座った。 「ということは、わたしの従兄弟とあなたの話し合いは物別れに終ったというわけね」彼女はそう言いながら、ドミニーが横に座れるように場所を詰めた。 「けんかはしていませんよ」 「そうでしょうね。モーリスはあなたがひどく気に入ったみたいだから。以前彼と会ったことがあるかしら。ザクセンで一日か二日会っただけじゃない？」 「そうです。初めて王子と親しくお話したのはロンドンでした。王子には最大限の尊敬と敬意を抱いています。でも、この楽しいおつき合いも、実はベルリンの友人がそれを望んでいるからという、そのへんの理由が大きいんじゃないでしょうかね。わたしの個人的な意見ですが、あれくらい素晴らしい人格者は、どんな国でも見たことがありません」 「モーリスは高潔の士ね。わたしが知っている大貴族のなかでも、ちょっとした考え方や行動に生まれの気高さを感じさせる数少ない人間の一人だわ。たった一つだけ心を痛めてるものがあるけれど」 「何です、それは？」 「あなたたちの意見が分かれた話題――ドイツとこの国の戦争のこと」 「王子は理想主義者でいらっしゃる。ときどきどうしてこちらに送られてきたのだろうと不思議に思うことがあります。もっと権謀術数に長けた人間を寄こばよかったのに」 彼女は肩をすくめた。 「あのフランスの偉人が言っているでしょう、どんな大使もいつまでも紳士ではいられない――政治的には、って」 「わたしは外交官じゃないから分かりませんがね」 「でも、外交官になる資格はいろいろ持っているわ」彼女は皮肉をこめていった。 「たとえば？」 「あなたは徹底して無慈悲で、仕事となれば思いやりもいたわりの心もない」 「そんなことはありません」 「あした、わたしはロンドンに帰る。とっても惨めな、不幸な女として。幸せをもたらすはずだった手紙も持って行く。命を捨てて得ようとした愛に裏切られたのよ。皇帝の命令を振りかざしても、わたしのすべてを捧げても、幸福は五秒と訪れなかった」 「わたしがお願いしているのは、ただ猶予をくださいということだけです」 「六年前のレオポルド・フォン・ラガシュタインだったら、いったいどんな猶予をくれといったでしょう」彼女の口調が突然激しくなった。「猶予をくれだなんて！あの頃の彼は氷山をも溶かすような言葉を使った。ときどき夜中に彼の言葉が浮かんできて、わたしを嘲るの。あの頃の彼には国家なんてなかった。恋人が歩く天国しかなかった。支配者じゃなくて女王しかいなかった。そしてその女王がわたしだった。それが今は――」 ドミニーは不思議な胸の痛みを覚えた。彼女は相手の表情からいつもの厳しさが消えたのを見て、目を光らせた。 「今ちょっとだけレオポルドみたいだったわ。普段は彼と似ていないけど。あなたは彼をアフリカのどこかに置き去りにして、偽者になってここに来たんじゃない？」 「しばらくはそう信じてください」ドミニーは強く懇願した。 「それが本当だったらどうしましょう」と彼女は突然言った。「ときどきあなただと思えないときがある。レオポルドがよく使っていた言い回しを、あなたの口からは聞いたことがない。西アフリカって魔術師の天国なの？もしかしたらあなたは偽者で、わたしが愛する人はまだ向こうにいるのじゃないかしら――たぶん病気で。あなたはまるで稀代の名優みたいにエヴェラード・ドミニーを演じている。もしかしたらここに来る前はレオポルドを演じていたんじゃない？あなたはわたしのレオポルドじゃない。愛は朽ち果てたりしないもの、あなたが信じさせようとしているみたいには」 「どうやらようやく分かっていただけたようですね。カールトンでお会いした最初の瞬間から申しあげているように、わたしはあなたのレオポルドじゃないんです。エヴェラード・ドミニーなんです」 「確かめてみるわ」彼女は急にそう言って立ちあがった。「腕を組んでちょうだい」 彼女は人々が小さく固まっておしゃべりやらブリッジをしている広間を通り抜けた。シーマンは騙されやすい素人投機家に囲まれて鉱山の講義をしているところだった。彼らはあちらこちらで立ち止まり、短い言葉を交わしたが、ステファニーの指は同伴者の腕を決して放さなかった。彼らは狩りの版画の見事なコレクションが並ぶ廊下を進み、彼女はそれに興味をひかれた振りをした。そして小さな回廊から舞踏室に入った。そこには彼ら以外誰もいなかった。彼女は相手の肩に手を置き、目を見つめた。唇が彼の唇に近づいた。 「キスなさい、レオポルド――唇に」彼女は命令した。 「ここにレオポルドはいません。あなたもそう言ったじゃありませんか」 彼女はさらににじり寄った。「唇にキスなさい」 彼は彼女を抱き、かがむようにして唇を合わせた。それから彼女は彼から離れて立った。しばらく目を閉じ、再び彼が近づくのを防ぐように両腕をつきだしていた。 「これで本当のことが分かったわ」 ドミニーは適当な折を見て、投資先を探す少人数のグループからシーマンを引き離した。 「厄介なことになったよ」 「シュミットの密使とやらが何かしでかしたか」 「いや。今晩は彼に近づかないつもりだ。君もそうしたほうがいい。厄介というのは王女のことなんだ」 「王女の扱いに関する限り、君はへまをしたと思うね。対内的にも対外的にもなりすますべき人間になりきるという君の一般原則には大賛成だ。それこそがスパイ活動を成功させる秘訣なのだから。しかし例外を設けるときもわきまえておかなければならない。皇帝の命令に従うのは、わたしもどうかと思う。だが一方で、王女にもっと人間的な態度で接するとか、ロンドンの彼女の家を訪ねるとか、君の変わらぬ愛の熱烈な証拠を見せるとか、そういうことをするのは何の問題もないじゃないか」 「いったんそんなことをはじめたら――」 「いいかね。王女は世慣れた女性だ。分別がある。それに君たちはしっかり結ばれているのだ。遠慮なく言わせてもらうと、ドミニー夫人を相手にいちゃついているのを見るのは一瞬たりとも我慢ができない。しかし王女となら良心が咎めることなんか何もない。彼女を敵に回すことは絶対に避けたまえ」 「手遅れだよ。彼女はもう床について、早朝にここを発つつもりでいる。どうやらわたしが西アフリカの魔術を使って彼女の愛人の魂を向こうに残し、彼の身体だけ借りて戻ってきたと考えているようだ」 「そう考えてくれるなら、苦労はないじゃないか」 「とんでもない！」ドミニーは憂鬱そうに言った。「彼女は帰る前にさんざんいたずらをするかもしれない。それに万が一シュミットの従兄弟の話が本当で、彼女が向こうに行き、まだ生きているドミニーを見つけたとしてみろ。王女がドイツの生まれじゃないことは知っているだろう。ドイツの未来など、彼女には全然関係ないんだ。実際、ほとんどのハンガリー人と同じように、イギリスのほうに好意を抱いているようじゃないか。イギリス人というのは猫みたいになかなか死なないらしい。ドミニーが生き返って、彼女が連れ帰ったらどうする？君は戦争がはじまるまで、あまりわたしを活用する気はないと言っていたが、慣用句の好きなこの国の言い方を借りれば、そんなことが起きたらせっかくの計画も『水泡に帰してしまう』んじゃないか？」 「王女はスイートルームに泊まっているのか？」 「西翼のね。そうだ！君が彼女のところに行って、何とかしてくれないか。この時間ならまだ寝ていないだろう」 シーマンは頷いた。 「任せてくれ。君は戻って主人役を務めたまえ」 ドミニーはまず主人役を演じ、それから夫を演じた。ロザモンドは嬉しそうに一声叫んで彼を迎えた。 「とっても楽しいわ、エヴェラード！みんな、すごく優しくしてくれるの。ミスタ・マンガンは新しい一人トランプの仕方を教えてくれたのよ」 「そろそろお休みの時間ですな」ドクター・ハリソンが割りこんできて、ぶっきらぼうに言った。

彼女は思いきり甘えるようにエヴェラードのほうを振り返った。 「二階に連れて行ってくださる？ハリソン先生に追い出されるまえに、あなたが来てくれないかとずっと思っていたのよ」 「遅れていたら、がっかりして胸が潰れただろうな。さあ、みんなにお休みを言いなさい」 「まあ、まるでわたしが子供みたいなことを言うのね」彼女は笑った。「じゃあ、みなさん、さようなら。厳しい夫がわたしを連れ出そうとしているの。ハリソン先生、いつわたしを診にいらっしゃるの？」 「診察の必要はない。ここにいるどの女性にも負けないくらい健康なんだから」 「先生、ちょっと冷たいんじゃない？」彼女はドミニーに不平を鳴らした。「みんなに挨拶できるように広間を通っていきましょう。アイダーシュトルム王女はいらっしゃるの？」 「残念だけど、お休みになったようだ」部屋を出ながらドミニーが答えた。「頭痛がするとか言っていた」 「とってもきれいな方ね」ロザモンドは考え込むように言った。「わたしにももうちょっと好意を見せてくれたらいいのに。あなたのことは大好きのようだけど」 「今はどうも嫌われているらしい」 「そうかしら！わたしって観察眼がすごく鋭いの。ときどき、あなたを見つめているのを見かけたわ。もちろんわたしはあなたの本当の奥さんじゃないし、あなたはわたしの本当の夫じゃないから、焼き餅を焼くのは馬鹿げているんだけど。そうじゃない、エヴェラード？」 「ちっともそんなことはないさ。君の夫でないなら、ほかの誰の夫にもなりたくないよ」 「そんなふうに言ってくれるなんて、わたし、あなたが大好き」彼女は小さなため息をついた。「でも何か間違っているわ。あら、公爵夫人が怖い顔をしている。きっと誰かに悪い札を切られたのね」 ロザモンドの就寝の挨拶は容易に終わらなかった。とりわけターニロフは彼女をしりぞかせたがらなかった。しかし彼女は上品に言い訳をし、明日の晩はもう少し遅くまで起きていると約束した。ドミニーは二階へ彼女を導いた。ぐずぐずとした彼女の歩みに、奇妙な喜びを感じながら。彼女の部屋のドアまでくると、なかを覗きこんだ。看護婦が安楽椅子で読書をし、女中がその後ろで編み物をしている。 「ほう、これなら快適だね」彼は快活に言った。「看護婦さん、どうかそのままで」 ロザモンドは別れをいやがるように、彼の両手をつかんでいた。それから彼の顔を引き寄せ、キスをした。 「そうね」彼女はどことなく悲しそうに言った。「とっても快適だわ。ね、エヴェラード？」 「なんだい？」 彼女は彼の頭を引き寄せ、耳元でささやいた。 「二分間だけお休みを言いにあなたのところに行ってもいい？」 彼は微笑んだ。素晴らしく優しい微笑みだった。しかし彼は首を横に振った。 「今晩はだめだよ。王子は夜更かしが好きだから、下に行って相手をしてやらないと。それにあのいじめっ子のお医者さんには睡眠時間を十時間取るよう言われているからね」 彼女はがっかりした子供のようにため息をついた。 「分かったわ」彼女はふと聞き耳を立てた。「あれ、車じゃない？」 「誰かお客さんが早々にお帰りになるんだろう」そう答えて彼は踵を返した。

