# 入れかわった男

## 第十一章

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ドミニーは夢のなかをさまようように部屋を出た。階段を降りて自室に戻ると、帽子と杖をつかみ、見る間に庭を覆いつくさんとする海霧のなかへ踏み出した。氷のように冷たい蒸気の雲には、北極の寒気がありったけ詰めこまれている。しかしそれにもかかわらず彼の額は熱く、脈は燃えるようだった。壁に囲まれた庭の裏門を抜けると、広々とした沼地があった。あちらこちらに水路が走り、潮が満ちると海水が舐めるように舌を伸ばしてくる。彼はおぼつかない足取りで海のほうへ進み、舗装していない石だらけの道に出た。そこでしばらくためらい、周りを見回していたが、直角の方向に向きを変えた。やがて小さな村に着いた。乾燥した赤煉瓦造りの古い家々、こぎれいな狭い庭、背の高い楡の木に囲まれた教会、そして道が交差するところには三角形の芝地があった。一方の側には、低い、わらぶき屋根の建物が見えた。ドミニー・アームズという居酒屋である。反対側には古ぼけた四角い石の家があり、真鍮の表札がかかっていた。近づいて名前を読み、ベルを鳴らすと、応対に出たやせた女中に医者との面会を求めた。しばらくすると若々しい見かけの中年男が診療所にあらわれ、一礼した。ドミニーは一瞬あっけにとられた。 「ハリソン先生にお目にかかりたいのですが」 「先生は数年前に引退なさいました」丁寧な答えが返ってきた。「わたしは先生の甥です。スティルウェルと申します」 「先生はまだこの近所にお住まいだろうと思っていたのですが。わたしはドミニーです。サー・エヴェラード・ドミニー」 「そうじゃないかと思っていました。伯父はわたしとここに住んでいます。実を言いますと、伯父はあなたを待っていたのですよ。伯父は一人の患者さんだけを引き続き診ているんです」スティルウェル医師は重々しくつけ加えた。「誰のことかはお分かりでしょう」 訪問者は礼をした。「妻のことですね」 若い医師はドアを開け、客に先に入るように身振りで勧めた。 「この家の裏に伯父の小部屋があります。ご案内しましょう」 彼らは気持ちのいい、白い石の廊下を通って、小さな部屋のなかに入っていった。フランス窓からは石畳のテラスとテニス用の芝生コートが望めた。肩幅が広く、日焼けしていくぶん深刻な表情を浮かべた白髪の老人が窓のほうから後ろを振り返った。彼はそれまで窓に向って毛鉤の箱を調べていたのだった。 「叔父さん、古いお友達をお連れしました」 医師は、待ちわびていたという目でドミニーを見やり、挨拶するように前に進み出たが、ぴたりと立ち止まると、疑わしそうに頭を振った。 「確かに古い友人とよく似ているが、どうやらあなたは別人のようだ。お目にかかったことはまだないと思うが」 束の間、やや緊張した沈黙が流れた。ドミニーはぎこちなく前へ進み出ると手を差し出した。 「どうしたんです、先生。そんなに変わっているはずありませんよ。確かに試練の月日が続きましたが――」 「まさか今話している相手がエヴェラード・ドミニーだというんじゃないだろうね」医師が口を挟んだ。 「まぎれもなくわたしです！」 医師は冷ややかに握手を交わした。長年かかりつけの医者を勤めてきたにしては、名門一族のあるじに対して気持ちのこもっていない歓迎の仕方だった。 「名乗ってくれなければ、君だとは分からなかった」 「しかし、ここにいるのは間違いなくわたしです。相変わらず趣味に打ちこんでいるようですね、先生」 「毛鉤釣りをはじめたのは、狩りを止めてからだよ」 またもや気まずい沈黙が流れた。若いほうの男がその隙間を埋めようとした。 「釣りと猟とゴルフ。暇つぶしがなかったら、わたしたちみたいな哀れな田舎医者はいったいどうしたらいいのでしょう」 「それならあとでお誘いをさしあげましょう。狩りといえばドミニー家の人間が今でも得意とするところですから」 「楽しみに待っていますよ」即座に返事が返ってきた。

再び毛鉤の箱の上にかがみこんでいた伯父は不意に振り返った。 「アーサー、回診に行きなさい。サー・エヴェラードはわたしと二人きりで話をしたいだろうから」 「たしかにお話があるのですが、しかし専門家としての意見をお聞きしたいのです。別に――」 「とっくに出かける時間なんです。それじゃわたしは失礼します。ところでサー・エヴェラード」彼は声をひそめて、相手を軽くドアのほうに引っぱっていった。「伯父が少々無愛想だとしても大目に見てやってください。伯父はドミニー夫人に献身的に尽くしています。ときどき心配しすぎじゃないかと思うのですが」 ドミニーは頷いて、部屋に戻り、医師を見た。流行遅れのズボンを穿いた医者はポケットに両手を突っこみ、つくづくと彼のほうを見ていた。 「とても信じられんな、あんたが本当にエヴェラード・ドミニーだなんて」彼の話し方はいささかぞんざいだった。 「でも、残念ですが、本物と認めざるを得ないでしょう」 老人は品定めするように彼を見ていた。「今の君とわたしが記憶している数年前の君は全然一致しない。酒に溺れて見る影もないと聞いていたが」 「世間は嘘つきだらけです。少なくともそのうちの一人とお会いになったようですね」ドミニーは穏やかに答えた。 「不摂生の跡さえない」 「わたしの一族は頑健にできているんです。ワインを二本、平気で空けるような人間が代々名を連ねていますから」訪問者は無頓着に言った。 「イギリスを逃げ出してから肝も据わったらしいな。昨日の晩は屋敷に泊まったのかね？」 「他にどこで寝たらいいんです？ついでに言うと、自分の寝室で寝たんですが、その報いを受けましたよ」ドミニーは顎をあげて喉元の傷を見せた。「別にどうということはないんですが」 「当然だよ。わたしに相談もせずに屋敷へ行くなんて、そんな権利は君にない。あんなことが起きたあとだ、奥様に会う権利だってあるものか」 「わたしの家庭問題に厳しい意見をお持ちのようだ」 「君の過去を知っているからだよ」彼はそっけなく答えた。 ドミニーは勧められもしないのに、安楽椅子に腰掛けた。 「先生はいつもわたしに厳しかった。ですが、今は純粋に専門家としてお話していただけませんか」 「わたしが厳しかったのは、君がいつも自分勝手なけだものだったからだ。この世でいちばん優しい女性と結婚しておきながら、悪い癖を直そうともしなかった。そして別の男の血に手を染め、ふらふらと家に帰り、彼女を怖がらせ、正気を失わせた。それから自分の罪を償おうともせず、十年以上も家を離れていた」 「それはちょっと一方的すぎる見方じゃないでしょうか。もう一度お願いします。余計な話はさておいて、専門家としての見解をお聞かせ願えませんか」 「ここはわたしの家だ。それに君のほうがわたしに会いに来たんだ。わたしは好きなことを言うよ。それが嫌なら出ていくがいい。ドミニー夫人のためでなければ、ここの敷居をまたぐことだって許さなかっただろう」 ドミニーは口調を和らげた。「それでは妻のために、わたしに対するその徹底した非難の気持ちを忘れてもらえませんか。わたしがここに来た目的はただ一つ。妻の健康を回復するために、あなたと一緒にできることがないか、教えてもらうためなのです」 「君とわたしが協力するなんてとんでもない」 「お手伝いいただけないのですか？」 「わたしが手伝っても何の役にも立たん。奥様の身体はあらゆる手段を尽くして治療した。今はすっかり健康を回復している。あとは君次第だ。君一人にかかっている。あまり期待はしていないがね」 「わたしにかかっている？」ドミニーは驚いて相手の言葉をくり返した。 「貞節はあらゆる善良な女の第二の天性だ。ドミニー夫人も善良な女であり、その例に漏れない。彼女の頭が枯渇しているのは、心が愛を必死に求めているからだよ。もしも彼女に君の後悔と改心を信じさせることができたら、もしも過去の償いが可能で、十分にそれがなされたなら、その場合はどうなるか分からない。君は金持ちになったそうじゃないか。昔のだらしない、勝手な君から考えると奇跡みたいな話だ。有名な医者を呼んでくることもできるだろう。治すことはできないかもしれないが、彼らに数百ギニーを払えば、君の良心は安らぐかも知れん」 「その人たちに会ってくれますか。誰を呼んだらいいのか教えてください」ドミニーは嘆願した。 「馬鹿なことを！わたしは現役を退いたんだ」にべもない返事だった。「わたしは誰にも会わないよ。もう医者じゃないんだ。一村人になったんだ。ドミニー夫人には古い友人として会いにいくんだ」 「どうしたらいいのか教えてください。専門家を呼んでもだめなのですか？」 「今のところ何の意味もないな」 「あのいとわしいミセス・アンサンクのことはどうです？」 「本気でやるつもりなら、あの女の処分は君の仕事の一部だ。彼女は奥様から太陽を隠すように立ちはだかっている」 「じゃあ、どうして今まで彼女を放っておいたんです？」 「一つには、他に代わる人がいなかった。それにドミニー夫人は、君こそ彼女の息子の殺人犯だと信じこみ、一種の罪の償いとして彼女を保護してやるべきだと、とんでもない考えに取り憑かれたからだよ」 「二人のあいだに情愛はかよってないとお考えですか？」 「これっぽっちもありはせん。ただドミニー夫人が優しくておとなしすぎるものだから――」 医者はふと言葉を切った。訪問者の指が首を撫でていたからだ。 「それは別だ」医師は荒々しく言った。「まさしくそこに彼女の心の病が残っているんだ。わたしの見るところ、ミセス・アンサンクはそこにつけこんでいる。そう言えば、ドミニー家に臆病者はいなかったな。君が勇敢さを取り戻したのなら、ミセス・アンサンクを追い出し、ドアを開け放って寝たまえ。一晩でもいい、ドミニー夫人がナイフを持って君の部屋に入ることなく過ごすことができれば、彼女は、いつかは、あの狂気から解放されるだろう。できるかね？」 ドミニーが躊躇していることは手に取るように分かった――そして動揺していることも。医師はあざ笑った。 「やっぱり怖いか！」 「先生がご想像なさっているのとは別の意味でね。妻はもうわたしの命を狙ったりしないと約束してくれたのです」 「じゃあ、君さえその気になれば、彼女を治してやることができる。それができれば、君は、人もうらやむ素晴らしい人生の伴侶を得ることになる。しかし君が楽しみにしていたこと、たとえば、町に別邸を建てたり、競馬やヨットに打ち興じたり、スコットランドでライチョウ狩りをしたり、そういうことは全部、あきらめろ。少なくともしばらくのあいだは、すべての時間を奥様に捧げなければならない」 ドミニーは椅子のなかでそわそわした。 「これから数ヶ月は無理です」 「無理だと！」 医師は鸚鵡返しに言った。まるで感嘆と軽蔑をこめて、その言葉を口のなかで転がしたかのようだった。 「わたしはもう以前のような怠け者ではないのです」ドミニーは顔をしかめて言い訳した。「今は、お金儲けには、いろいろな責任が伴ってくるんですよ。これから数ヶ月のうちに、ドミニー家の地所を担保にして借りていた金をみんな返す予定なのです」 「君が時間をどう使おうと、わたしの知ったことではない。わたしが言いたいのは、ただ、奥さんが治るとすれば、それは君のやる気にかかっているということだ。さあ、こっちへ来てごらん。窓の明かりの差すところへ。君の顔を見せてくれ」 ドミニーは軽く肩をすくめて求めに応じた。太陽は出ていなかったが、白い北極光が揺れ動いていた。それは赤茶けた髪にちらほら白髪が混じっていることや、きれいに刈りこまれた口ひげにも同じものがほんのわずか混じっていることを示した。しかし落ち着き払った目にも、引き締まった男らしい日焼けした顔にも、どことなく傲慢な唇にも、衰えは全く見られなかった。医師は鉤針の箱を再び取りあげ、ドアのほうを顎でしゃくった。 「君は奇跡だ。しかしわたしは奇跡が嫌いだ。一両日中にドミニー夫人を訪ねるよ」

